脱線の余談――クレイトン・ロースンと『オリエント急行の殺人』

 前回の記事でリチャード・ダルビーによるクリスティの書誌研究について触れたが、‘Agatha Christie’s Hercule Poirot’にはもう一つ興味を引く情報がある。それは米版の『オリエント急行の殺人』。
 英版の原題は“The Murder on the Orient Express”であり、邦題もこれに基づいているが、ドッド・ミード社から刊行された米初版は、“The Murder in the Calais Coach”となっていた。これには、二年前に出版されたグレアム・グリーンの(同じくオリエント急行を舞台とした)『スタンブール特急』(Stamboul Train)と紛らわしいために改題されたという事情があるらしい。
 この米初版のダスト・ジャケットのデザインを手がけているのは、なんと、アメリカのミステリ作家で、マジシャンとしても知られるクレイトン・ロースン。言わずと知れた、『帽子から飛び出した死』や『首のない女』、「天外消失」などの作者である。
 ダスト・ジャケットのファクシミリを販売しているサイトがあるので、ネット上でも、このジャケットがどんなものだったかは参照できる。よく見ると、左上に、小さいながらも、ロースンの署名があることも分かるだろう。
 『オリエント急行の殺人』は1934年の刊行、そして、ロースンのデビュー作『帽子から飛び出した死』は1938年の刊行なので、この頃、ロースンはミステリの分野ではまだ知られていなかった。
 マイケル・カニックの“Clayton Rawson: Magic and Mystery”(1999)によれば、ロースンはもともとアートを学び、初期の頃は、イラストレーターやアート・ディレクターとして、広告やカタログなどのデザインも手がけたという。同書でも、ロースンが『オリエント急行』米版のデザインを手がけたことが触れられている。まだミステリ作家ではなかったことを考えると、おそらくは、プロのイラストレーターとして請け負った仕事の一つだったのだろう。
 ダルビーによれば、このジャケット付きの米初版は、2000年に行われたオークションにおいて1,195ドルで落札されたとのこと。他の作品の米初版と比べても破格のお値段だったらしい。
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