ジョン・ロード “Up the Garden Path”

 “Up the Garden Path”(1949)は、プリーストリー博士が登場する長編。面白いことに、同題の長編がマイルズ・バートン名義の作品にもあるが、ストーリーは全く別物。

 11月のある晩、リッチグローヴという村に住む、著名な法廷弁護士のヘンリー・タイニングは、同じ村のガブリエル・ホックリフに招かれて、彼の家、「プライアーズ・ファーム」に来ていた。ホックリフは園芸や小道具の発明を趣味にして悠々自適の生活を送る隠遁者だった。
 二人が居間にいると、外から鋭くつんざくような叫び声が聞こえる。二人がタイニングの懐中電灯を頼りに声の聞こえた庭のほうに行くと、庭に通じるアーチ形の入り口に女性が倒れている。女は頭を殴打されて死んでいた。タイニングから女が死んでいると聞かされると、ホックリフはショックのあまり、もともと弱かった心臓の発作を起こして倒れてしまう。
 タイニングは、倒れたホックリフを居間に担ぎ込み、医師と警官に連絡する。やってきた二人とともに死体を確認しに行くと、被害者の足跡のほかに、鋲底の男の靴跡があることに気づく。ほかに不明の足跡はなかったことから、それが犯人の足跡と思われた。
 死体はポーリン・クロベリー夫人だった。その日、ポーリンは夫のドナルドと激しい夫婦喧嘩をし、家を飛び出していた。彼女は、小さな家に姑と夫との三人暮らしで、姑と不仲だったが、母親の肩ばかり持つ夫に嫌気がさし、真剣に離婚を考えていた。
 自宅に戻ったタイニングは、妻から、事件の前にポーリンが彼に相談したいという電話をかけてきたため、「プライアーズ・ファーム」に行っていると教えたと告げる。ドナルドの家からは、足跡と同じ鋲底の靴が見つかり、アリバイもなかった彼は、喧嘩のあと、妻を追って殺害したと見なされ、容疑者として逮捕される。
 ドナルドの無実を信じるタイニングは、スコットランド・ヤードのワグホーン警視に協力を依頼し、ワグホーンは非公式の立場で身分を隠してリッチグローヴに調査に赴く。ところが、事件のあったちょうど一週間後、全く同じ場所で、同じ状況で死んでいる身元不明の男の死体が発見される・・・。

 この頃の作品になると、プリーストリー博士は登場場面がめっきり減り、土曜の例会でワグホーン警視に助言を与える役割に限定されてくる。本作もワグホーン警視の捜査ぶりの描写がメインで、基本は同様のパターンなのだが、博士は、終盤で自らリッチグローヴに出かけ、現場を検証したり、関係者に質問するなど、この時期の作品としては珍しく存在感を発揮している。土曜以外の日に夕食会を設けていつものメンバーを集めるのも異例だ。
 後期の作品になってくると、冒頭で事件が発生したあと、これといった展開もなく、警察の捜査と例会参加者の議論が延々と続くという流れになりがちなのだが、本作では、さらに第二の事件が起き、その被害者の正体をめぐる謎の追及が続くなど、ある程度起伏のあるストーリー展開のおかげで、うんざりするような退屈さを比較的免れていると言えるだろう。もっとも、謎そのものはほぼ自明で、慣れた読者なら早い段階でプロットをほぼ見抜いてしまうに違いない。
 ただ、ロードの作品を読んでいつも思うことだが、まさに純粋な推理小説で、夾雑物がほとんどない。本作でも、のっけからすぐ殺人が起きる。まさに第一ページ目。そして、余計な間合いも置かずにすぐ捜査が始まる。舞台や登場人物、人間関係などのやたらとくどい描写や展開が続いてようやく事件が起きる作品は珍しくないが、ロードは実にあっさりしている。初めから作品の本質は謎とその解明にしかないと割り切っているのだ。わき道に逸れるような色恋沙汰も衒学的な知識の開陳もなく、ひたすら捜査と推理を続けるだけの展開は、(シモンズのような批評家には退屈この上ないとなるのだろうが)筋金入りの謎解きファンにはたまらなく心地よいはずだ。特にそうした読者層の厚い我が国では、もっと紹介されてもおかしくないのではなかろうか。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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