J・J・コニントン “The Castleford Conundrum”

 “The Castleford Conundrum”(1932)は、クリントン・ドリフィールド卿が登場する長編。相棒のウェンドーヴァー氏も登場している。

 フィリップ・キャッスルフォードは、妻のウィニフレッドが所有する邸、「キャロン・ヒル」に、娘のヒラリーとともに住んでいる細密画の元画家だった。ウィニフレッドは後妻で、ヒラリーは亡くなった最初の妻との間に儲けた連れ子だった。
 キャッスルフォードは、投機の失敗で財産を失ったあげくに、事故で右手の指を失い、画家として生計を立てる道を絶たれていた。ウィニフレッドは、もともとキャッスルフォードに自分の肖像画を依頼した顧客だったが、彼が指を失ったのは、彼女が車のドアを閉める時に彼の指を挟んでしまったためだった。
 ウィニフレッドにとっても二度目の結婚であり、前夫から相続した財産のおかげで「キャロン・ヒル」で豊かな生活を送っていたが、キャッスルフォードは自分と娘の生活を守るためにウィニフレッドとの結婚を選択したのだった。ところが、ヒラリーは年長じるにつれ、義母のウィニフレッドとの関係が険悪になっていた。「キャロン・ヒル」の管理は、ウィニフレッドの腹違いの妹、コンスタンス・リンドフィールドが切り盛りしていたが、彼女もフィリップとヒラリーの父娘によい感情を持っていなかった。
 ウィニフレッドの前夫には、ローレンス・グレンケイプルとケネス・グレンケイプルという弟がいて、二人は彼女が相続した兄の財産を狙っていた。ウィニフレッドは糖尿病を患っていたため、万が一のために遺言書を作成していたが、その内容は、グレンケイプル兄弟と妹のコンスタンスに一定額を遺すほかは、財産の大半を夫に遺すというものだった。グレンケイプル兄弟は「キャロン・ヒル」に来てウィニフレッドの歓心を買い、その財産がもともと自分たちの兄の財産であったことを理由に、ウィニフレッドに遺言書を書き替えるよう説得していた。彼女も説得に応じて、兄弟に手厚くした新たな遺言書を作成することに同意し、弁護士に連絡して以前の遺言書を破棄させた。
 ケネスにはフランシスという息子がいて、買い与えられたルークライフルに夢中になり、敷地内の林で缶や猫を標的にして射撃を試していた。近隣に住むハッドン夫人の家の窓に流れ弾が当たり、ハッドン夫人が穴の開いた窓を修復していると、コンスタンスがやってくるのが目に入る。彼女に被害を訴えると、コンスタンスは、自分にも流れ弾が飛んできて、持っていたカーディガンに穴をあけられたという。
 二人が話している間も、林のほうからはライフルを撃つ音が聞こえていたが、その時、コンスタンスは人の叫び声を聞きつける。二人が「キャロン・ヒル」に向かうと、ウィニフレッドがベランダで椅子に座った状態で死んでいた。状況から見て、背中に流れ弾が当たり、心臓を貫通したものと思われた。テーブルにはお茶のカップが二つあり、直前まで誰かがいたらしかった。
 警察は当初、フランシスの流れ弾が当たった事故と考えていたが、死因となった弾丸の口径がルークライフルと一致せず、ウィニフレッドの目の瞳孔が異常に収縮していたことから、モルヒネを投与されていたことが判明するなど、不審な状況が明らかになってくる。
 彼女は最初の遺言書を既に破棄していたが、新たな遺言書はまだ作成しておらず、遺言書のないまま死んだ結果、彼女の財産は全て夫のフィリップが相続することになった・・・。

 本作は、クリス・スタインブラナー&オットー・ペンズラー編“Encyclopedia of Mystery and Detection”においてコニントンのベストの一つとされ、“Master of “Humdrum” Mystery”の著者、カーティス・エヴァンズも、“Murder in the Maze”、“In Whose Dim Shadow”と並んで、コンニントンの傑作として推している作品である。
 コニントンは、化学の教授だったという経歴もあってか、化学的な専門知識の多用を強調されがちだが、それだけでなく、フェアプレイを重んじ、緻密に練り上げた複雑なプロットを得意とした作家でもあった。力を出した時のコニントンの作品は、一筋縄ではいかない、幾重にもツイストを効かせたプロットをベースに、随所に多くの手がかりを散りばめ、これをパズル・ピースのように細心に当て嵌めて収束させる解決が光る。“The Case with Nine Solutions”や本作はその典型的な例で、前者における「九つの解決」の議論や最終章のメモの抜粋で提示されるクリントン卿の推理、本作におけるウェンドーヴァー氏にクリントン卿が提示した九項目の手がかりなどは、その特徴が端的に表れたものだろう。21の手がかりをきれいに当て嵌めて解決を提示する“The Twenty-One Clues”も(プロット自体は前二者に比べると弱いが)その一つといえる。
 「細心にプロットを組み立てた推理小説」(“Encyclopedia of Mystery and Detection”)、「地味で細心な推理」(H・R・F・キーティング編“Whodunit?”)、「複雑なパズル」(ブルース・F・マーフィー“The Encyclopedia of Murder and Mystery”)という表現に示されるように、欧米の批評家の評もそうした特徴を捉えたものが多い。“Twentieth Century Crime and Mystery Writers”でコニントンの項目を書いているメルヴィン・バーンズも、やはり「細心(meticulous)」という言葉を使っている。
 本作では、クリントン卿とウェンドーヴァー氏は三分の二を過ぎた頃にようやく登場するが、“Mystery at Lynden Sands”の事件でたまたま顔を合わせたヒラリー・キャッスルフォードに支援を求められて捜査に乗り出すという設定になっている。人物描写が下手と言われるコニントンだが、キャッスルフォード親子をはじめ、本作の登場人物たちはそれなりによく描けていて、プロットにも説得力を与えているようだ。
 なお、本作で登場人物の一人がセイヤーズの『不自然な死』を引用するくだりがあるが、セイヤーズもコニントンの愛読者だったようで、『五匹の赤い鰊』でコニントンの“The Two Tickets Puzzle”を引用し、解決でもそのプロットを活用している。
スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

S・フチガミ

Author:S・フチガミ
お問い合わせ等は
fuhchin6491
(アットマーク)
hotmail.co.jp
へどうぞ

カテゴリ
フリーエリア
天気予報
リンク
検索フォーム
アクセスカウンター
RSSリンクの表示