『そして誰もいなくなった』の叙述と翻訳(追記)

 よくコメントをいただく根岸鴨氏から、‘nigger in the woodpile’という慣用句は、戯曲版ではどうなっているのかというご質問をいただいた。実は、この表現は戯曲版にも出てくるのである。
 「ミステリマガジン」1990年10月号に掲載された邦訳で言うと、221頁。第三幕第一場で、ロンバードが「すると、あなたが考えているのは、そうなんですか? 彼女こそ、隠された人物だと?」というセリフがある。対応する原文は、サミュエル・フレンチ社の英初版‘Ten Little Niggers’では、‘So that’s your idea, is it? That she’s the nigger in the woodpile?’となっている。「隠された人物」という訳がぴったりくるかどうかは疑問だが、少なくとも慣用句であることは理解しているようだ。
 この箇所は、米改訂版‘Ten Little Indians’でも同じである。清水訳の底本などと同様、なぜかこの箇所だけは慣用表現を置き換えにくいと考えたのか、‘nigger’という言葉がそのまま残っていたようだ。
 ところが、フレンチ社の現行版‘And Then There Were None’では、‘That she’s the guilty party?’と変更されている。ハーパー・コリンズのペーパーバックと同様、差別用語の置き換えは戯曲版でも徹底されるようになったようだ。確かにこのほうが意味は明快ではあるのだが、英初版のように、モチーフとしての一貫性が表現に生かされているほうが味わいがあるというものだろう。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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No title

疑問にお答え頂き、ありがとうございます!
やっぱり残ってるんですねー。クリスティーも出版社もそこまで直すのが面倒だったのかな。

でも、『ゼロ時間へ』の戯曲版では、たった一か所出てくる‘nigger’が
米版ではしっかり削除されてるんですよ。
たぶん慣用句をうまく置き換えられなかったんでしょうねえ。
‘fly in the ointment’もちょっとつらいものがありますしね(笑)
それこそ「興ざめ」というもので・・・(笑)
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