ポー、ディケンズ、ドイルへのフリーマンの挑戦

 「計画殺人事件」の挿絵をアップした機会に、フリーマンと他作家との関係についても触れておきたい。
 ノーマン・ドナルドスンによれば、フリーマンは他のミステリ作家の作品をほとんど読まなかったという。この点は、アガサ・クリスティのような作家とは大違いで、プロットに前例があるか、重複になるおそれがないか、といったことにはほとんど無関心だったのかもしれない。
 その一方で、同時代作家に対しては無関心でも、古典とされるミステリの先駆者達の作品についてはよく読んでいたと思われ、時にはそれらに挑戦を試みているのが面白い。
 “John Thorndyke’s Cases”収録の‘The Anthropologist at Large’がドイルの「青いガーネット」と関係があり、長編“The Mystery of Angelina Frood”がディケンズの『エドウィン・ドルードの謎』と関係があることは、ドナルドスンも論じている。
 ほかにも、「計画殺人事件」がドイルの『四つの署名』に、“Dr. Thorndyke’s Case-Book”収録の「青い甲虫」がポーの「黄金虫」に挑戦したものであるのも明らかだ。
 ‘The Anthropologist at Large’では、ホームズが帽子から組み立てた推論がいかに不確実なものかを暗に批判しているし、“The Mystery of Angelina Frood”は、ディケンズの未完の作品に対するフリーマンなりの解決の仕方を提示したものとなっている。(「アンジェリーナ・フルード」は「エドウィン・ドルード」のもじり。「エドウィンとアンジェリーナ」は、オリヴァー・ゴールドスミスの詩‘The Hermit’(隠者)の登場人物に由来する。)
 「計画殺人事件」では、警察犬に対する過信に警告を発しているし、「青い甲虫」では、羅針盤が時の経過によって微妙に方向がずれることを指摘し、「黄金虫」のプロットがそのままでは成立しないことを暗に示している。
 ポー、ディケンズ、ドイルという先駆者達の作品に挑戦しているからには、同時代のクリスティやカーなどの作品にも挑んでほしかったところだが、現存する作品からはそんな痕跡は見られない。やはりほとんど読んでいなかったし、さほど意識してもいなかったのかもしれないが、カーとロースンのように、作家同士で挑戦し合う例もあったのだから、フリーマンがそうした試みをしなかったのはちょっと残念ではある。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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