ヘレン・マクロイ『歌うダイアモンド』

 マクロイの短編集『歌うダイアモンド』(1965)が創元社から文庫化された。「東洋趣味」、「カーテンの向こう側」など、9編(原書は8編)を収めた粒ぞろいの素晴らしい短編集だ。邦訳解説にはなぜか言及がないようだが、「クイーンの定員」にも選ばれている。
 マクロイの短編集としては、ベイジル・ウィリング博士の登場する全短編を収めた“The Pleasant Assassin and Other Cases of Dr. Basil Willing”(2003)もある。ご参考に、後者の収録作品を挙げておこう。

 Through a Glass, Darkly(1948) 鏡もて見るごとく
 The Singing Diamonds(1949) 歌うダイアモンド
 The Case of the Duplicate Door(1949) 消えた頭取(エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン1965.5)
 Thy Brother Death(1955) 強襲戦術(エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン1960.5)
 Murder Stops the Music(1957) ピアノが止んだ時(ミステリマガジン1978.7)
 The Pleasant Assassin(1970)
 Murder Ad Lib(1964) 殺人即興曲(エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン1967.6)
 A Case of Innocent Eavesdropping(1978)
 Murphy’s Law(1979)
 That Bug That’s Going Around(1979)

 両短編集で重複しているのは、「鏡もて見るごとく」と「歌うダイアモンド」の二編だけであり、『歌うダイアモンド』は、SFやサスペンスも含めたマクロイの幅広い芸域をカバーしている点で、今なお独自の存在意義を有する短編集だ。別れた夫、ブレット・ハリデイによる序文も興味深い。特に邦訳は、中編「人生はいつも残酷」を併録しているところが心憎いサービスといえる。
 「人生はいつも残酷」は、邦訳解説にもあるように、本来は1949年に雑誌掲載された中編だが、1951年にデル・ブックスというペーパーバックの叢書から単独で刊行されている。他のマクロイの長編の多くもデル・ブックスでペーパーバック化されているが、このデル・ブックスは、バックカバーに犯行現場などの詳しく分かりやすい見取り図を載せているのが特徴で、「マップバックス」と呼ばれて読者から親しまれた。
 ベイジル・ウィリング博士のシリーズは、長編13、短編10という、意外とボリュームの少ないシリーズなのだが、密度の濃さは尋常ではなく、読破してしまった時、(もうこれ以上ないのか)と茫然とする思いがしたものだ。
 『歌うダイアモンド』の収録作については、邦訳解説が委曲を尽くして紹介しているので、ここで二番煎じの解説をするのは避けるが、その収録作からも窺えるように、マクロイには、非シリーズものにも多様性に富んだ素晴らしい作品が幾つもある。単行本未収録の短編も幾つか残っているようだし、ウィリング博士の登場作も含め、第二弾の邦訳短編集が出るのを期待したいところだ。
 ウィリング博士の長編リストも参考まで以下に掲げておこう。

 Dance of Death(1938) 死の舞踏(論創社)
 The Man in the Moonlight(1940)
 The Deadly Truth(1941)
 Who’s Calling?(1942)
 Cue for Murder(1942) 家蠅とカナリア(創元社)
 The Goblin Market(1943) 小鬼の市(創元社)
 The One That Got Away(1945) 逃げる幻(創元社)
 Through a Glass, Darkly(1950) 暗い鏡の中に(創元社)
 Alias Basil Willing(1951)
 The Long Body(1955)
 Two-Thirds of a Ghost(1956) 幽霊の2/3(創元社)
 Mr. Splitfoot(1968) 割れたひづめ(国書刊行会)
 Burn This(1980) 読後焼却のこと(早川書房)



『暗い鏡の中に』米初版
『暗い鏡の中に』米初版
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