ドロシー・L・セイヤーズ モンタギュー・エッグ氏の事件簿

 意外と知られていないようなので、セイヤーズの第二のシリーズ・キャラクター、モンタギュー・エッグ氏について紹介しておこう。
 エッグ氏は、ピカデリーのプラメット&ローズという、ワインなどアルコール飲料の会社のセールスマンである。ニックネームはモンティ。邦訳「ペンテコストの殺人」では、「あたし」という主語表記にされて、なにやらオジサンぽい印象を受けてしまうのだが、年齢まで示されてはいないものの、幾つかの作品で「青年」と描写されているので、実際はずっと若いと思われる。「セールスマンの手引き」なるものの教訓をしばしば引き合いに出すが、ピーター卿のようにポンポンと古典の引用を口にするようなスノビッシュなところがなく、庶民的で親しみの持てるキャラクターだ。
 登場作品は、短編11作。いずれも短めの作品だが、基本は謎解きものであり、プロットが充実していて、平均的な水準はピーター卿ものの中・短編以上といえるかもしれない。
 以下に作品リストを掲げておく。

短編集“Hangman’s Holiday”(1933)に収録
 The Poisoned Dow ‘08
 Sleuths on the Scent
 Murder in the Morning
 One Too Many
 Murder at Pentecost   ペンテコストの殺人(創元推理15 1996年冬号)
 Maher-shalal-hashbaz

短編集“In the Teeth of the Evidence”(1939)に収録
 A Shot at Goal
 Dirt Cheap
 Bitter Almonds
 False Weight
 The Professor’s Manuscript  教授の原稿(ミステリマガジン1985年7月号)

 なお、ほかにも単行本収録されたり、雑誌掲載された翻訳もあるようだが、かなり以前のことでもあり、自分でしかと確認できないため、安易に孫引きして情報を載せるのは避けることにした。ご容赦願いたい。というのも、これらの情報を載せている書誌の中には、‘Maher-shalal-hashbaz’をシリーズにカウントしていないものもあったりと、どうも気になる点もあるからだ。関心のある方は、ネット上でも検索すれば情報が出てくるので、ご参考まで。
 不可能興味の横溢した作品もあり、初登場作の‘The Poisoned Dow ‘08’は密室殺人を扱っていて、鍵をかけた書斎に一人でいたボロデイル卿がニコチンを盛られたワインで中毒死し、デカンターやグラスに細工した者もいないと思われることから、ワインを売ったエッグ氏自身が容疑をかけられる。
 ‘One Too Many’は列車内での人間消失を扱っていて、コヴェントリー=ロンドン間の列車からサイモン・グラント氏が忽然と姿を消し、線路の途中で切符の入った氏の衣服が捨てられているのが見つかるが、改札で回収された切符を確認しても、誰かになりすまして下車した形跡はなく、たまたま同じ列車に乗り合わせていたエッグ氏が謎を解く。
 ‘The Poisoned Dow ‘08’や‘Bitter Almonds’のように、ワインが重要な役割を演じ、エッグ氏の職業上の知識がものを言う作品もあるし、猫を募集した男が大量の猫の死骸を残して姿を消す、‘Maher-shalal-hashbaz’は、「赤毛連盟」を連想させるような着想が面白い。いずれもシンプルなアイデアが冴える短編で、数からいっても、一つの短編集にまとめるにはちょうどいいシリーズではないだろうか。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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No title

こんにちは。
東京創元社に頑張ってほしいところですね。
セイヤーズはクリスティなんかと違って文章が読みにくい感じがしてあまり得意ではないんですが、一応翻訳されたものは皆読んだので、出版してほしいです。

ところが、セイヤーズの原文はすごく読みやすいんですよ。
読みにくいのは、文章よりも、やたらと引用の類がポンポン出てくるところですかね。
翻訳だと、訳者がこまめに注を入れてくれているので助かりますが。
エッグ君の事件簿は、その点もあまり抵抗がなくて素直に楽しめますよ。

No title

へえー原文は読みやすいんですね。結構苦労したのは翻訳のせいでしょうか。

故浅羽爽子さんの翻訳も読みやすかったとは思うのですが
やはり登場人物が次々と文学や詩の引用をぶつけ合うのが
どうにもペダンティックでもどかしかったと思います。
セイヤーズは教養があって博識な人だったのでしょうけれど
それをあんなふうにしてやたらとひけらかしてしまったのは
あんまりよろしくなかったんじゃないでしょうか(笑)
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