メアリ・ロバーツ・ラインハート『螺旋階段』

 ラインハートの『螺旋階段』(1908)は、今日なお各種ベスト表に選出される古典であると同時に、ペーパーバックで版を重ね続けている人気作でもある。この年代に書かれたもので、今なおポピュラーな作品となると、ほかにはドイルやチェスタトンのような少数の有名作家の作品に限られてしまう。それほどの古典なのだが、我が国ではさほどの人気はなく、早川文庫から出ていた邦訳も既に入手困難になって久しいようだ。
 その理由は、サスペンスとしていかに優れていようと、謎解きの要素が希薄であることだろう。やはり日本は謎解き大国、背筋に戦慄の走るサスペンスより、知性を刺激するパズル、作者と読者の知恵比べと言うべき謎解きを好む国民性ということなのだろう。
 だが、さすが時の試練を経て生き残ってきた古典。『螺旋階段』は今日読んでも色褪せない面白さを持っている。ストーリーは、レイチェル・イネスという独身の中年女性が夏の間借りた田舎屋敷に甥、姪と一緒に移り住み、そこで不審な物音や人影に脅かされ、ついに屋敷内での殺人事件へと発展していくというもの。
 いわゆるHIBK(もし知ってさえいたら)派の元祖とされる作品でもあるが、そのレッテルから連想されるような、主人公の鈍感さにイライラさせられるじれったさは必ずしも伴わない。むしろ事件に巻き込まれていく平凡な中年女性の視点での叙述がサスペンスを高めるのに一役買っていると言えるだろう。もともと雑誌に連載されたせいか、甥の失踪、銀行の横領事件、屋敷内の隠し部屋、埋葬された死体の正体など、節目節目に新たな展開を盛り込み、弛緩することなく緊張感を持続させていく作者のストーリーテリングに感心させられる。メロドラマ的でやや荒唐無稽な展開が時代を感じさせはするが、今日まで衰えない人気を保っているのも頷けるというものだろう。
 『ジェニー・ブライス事件』や『黄色の間』など、近年、新訳が相次いでいるラインハートだが、原点とも言うべき本作もこのまま埋もれさせておくには惜しい傑作である。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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