スタンリイ・エリン『特別料理』

 最近文庫化された、エリンのこの第一短編集ほど粒ぞろいの作品を収録した短編集はなかなかあるまい。当然のことながら、「クイーンの定員」にも選ばれている。1956年に刊行された際の原題は、“Mystery Stories”という実にありきたりなタイトルなのだが、「特別料理」から「決断の時」まで10作の収録作品の多様性は、とてもこのタイトルでは表現し尽くすことはできない。
 同じ短編の名手でも、フレドリック・ブラウンは、閃いたインスピレーションをそのまま即興で作品に仕上げたような軽い印象の短編が多いが、エリンの場合は、アイデアを得てから一つの作品に仕上げるまでに、試行錯誤を重ね、練りに練った推敲の跡がにじみ出ているような重みを感じる。音楽で言えば、モーツァルトとベートーヴェンを連想させるような違いがある。ローレンス・トリート編『ミステリーの書き方』に収録された「『手直し』というきびしい仕事」というエリン自身のエッセイに、その作業工程の一端が示されている。
 「これ以外の結末はあり得ない」と思わせる大団円の必然性を伴った短編は滅多にあるものではないが、エリンの短編はそんな作品が目白押しだ。驚くべきことに、その水準の高さは第二短編集の『九時から五時までの男』になっても全く変わらず、第三短編集の『最後の一壜』に至ってようやく、わずかに衰えを感じさせる作品が散見される程度だ。印象に残った作品だけでも、「お先棒かつぎ」、「好敵手」、「ブレッシントン計画」、「最後の一壜」、「内輪」と次々と思い浮かぶが、それ以外にも、見事なプロットと大団円を兼ね備えた作品が多い。
 残念なのは、かつて光文社から刊行されていた雑誌「EQ」に翻訳が掲載されたまま放置されている、単行本未収録の作品が幾つか残っていることだ。数からいってもこれだけで単独の短編集が編まれるとは考えにくいのだが、このまま埋もれさせておくのはいかにも惜しい。
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