ヘレン・マクロイ 『あなたは誰?』刊行

 ヘレン・マクロイの『あなたは誰?』(原題:Who’s Calling?)がちくま文庫から刊行されました。ベイジル・ウィリング博士が登場する4作目の長編です。
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 『死の舞踏』でデビューしたウィリング博士は、初期作では、精神科医探偵らしく、心理学的な分析を縦横に駆使した推理を披露してくれることが多いのですが、時代が下るにつれ、『小鬼の市』のように、第二次大戦を背景にエスピオナージュ的な活動に従事したり、『暗い鏡の中に』のように、オカルト的な雰囲気を湛えた不可能犯罪の謎に挑んだりと、次第に精神科医としての領分にとどまらない活躍を見せるようになっていきます。こうした活躍ぶりももちろん見どころが多いのですが、芸域が広がると同時に博士本来の個性がやや希薄化し、ごく普通の謎解き型探偵へと脱皮していった面もあるようです。
 『あなたは誰?』は、マクロイがウィリング博士の個性を確立すべく意気込んでいた時期の作品として、このシリーズならではの心理学的な謎と、博士が精神科医探偵としての本領を最大限に発揮した重厚な謎解きの醍醐味を味わうことのできる傑作と言えます。博士のカリスマ的な能力と魅力が最も典型的に打ち出されたこの作品を知らずして、ウィリング博士について語ることはできないと言っても過言ではないでしょう。
 登場人物の描き分けの巧みさも見どころの一つで、不幸な生い立ちを背負うナイトクラブの歌手フリーダ、息子の自立を願いながら結婚に内心抵抗しているロマンス小説作家イヴ、自分の意思を封印しながら政治活動を続ける上院議員マーク、夫を通じて政治的野心を満たそうとするその妻ジュリアなど、多彩な人間模様が複雑なプロットを支えています。
 どう見ても殺されるはずのない人物の毒殺という中心的な謎を、不気味な匿名電話やポルターガイストの跳梁というサスペンスフルな展開で盛り上げる筋運びも特筆すべきもので、弛緩することのないストーリー展開にきっと唸らされることでしょう。シリーズの本流とも言うべきオリジナリティに溢れた心理学的推理を多くの読者の皆さんに楽しんでいただければ幸いです。


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