E・C・R・ロラック『曲がり角の死体』

 最近出たE・C・R・ロラックの『曲がり角の死体』を読んだ。これまでさほど目を向けてこなかった作家なのだが、『あなたは誰?』とほぼ同時期に刊行されたこともあり、興味が向いたというのが正直なところ。もちろん、今までもまったく手つかずの作家だったわけではないのだが。
 ロラックという作家は、忌憚なく言えば、欧米の評価においてはマイナーな位置づけの作家だ。『悪魔と警視庁』の解説でも、「地味でおとなしめの作風であり、シリーズ探偵にもとびぬけた個性が乏しい」し、主流の作家たちに比べれば、あくまで「バイプレイヤー」だとされている。海外のリファレンス・ブックを見ても彼女を取り上げているものは少ない。独立した項目を立てているものとしては、“Twentieth Century Crime and Mystery Writers”(1980)やクーパー&パイクの“Detective Fiction: The Collector’s Guide”(1995)くらいだが、記述は目立たない。前者は、ロラック(カーナック)の人物描写の弱さを遠慮会釈なしに指摘しているし、クーパーとパイクも、パースナル・チョイスには彼女の作品を挙げてはいない。
 しかし、いったんロラックをそうした位置づけの作家として、身の丈にあった物差しで評価してみれば、見るべき長所もいろいろ見えてくるというものだろう。確かにプロットにとびぬけた独創性があるわけではないし、登場人物にも魅力が乏しい。饒舌な会話が目立つし、中だるみしがちで退屈だ。「地味」という評言が一番しっくりくる。しかし、冒頭の謎の提示は魅力的なものが多い。『鐘楼の蝙蝠』では、行方不明の作家と壁の中から発見された首と両手のない死体、『悪魔と警視庁』では、警部の車の後部から発見されたメフィストフェレスの扮装をした男の死体という具合で、こうした謎の魅力を途中で腰砕けにならずにクライマックスまでうまく引っ張っていくだけの力量がロラックにはある。
 これは、『曲がり角の死体』でも同様で、衝突した車の中から発見された一酸化炭素中毒による実業家の死体という謎が、その後のストーリー展開を飽きさせずに牽引していく。帯文句には「正統派の良質なミステリを数多く書き続け」たとも記されているが、確かに彼女の作品は、今日では滅多に見られなくなった、いかにも黄金期の作家らしい、オーソドックスな謎解きの香気溢れるものであり、その特質は、これまで紹介された作品の中でも、この『曲がり角の死体』に最もよく表れているように思える。
 クリスティのような鮮やかな意外性やサプライズを期待すると肩すかしを食らうが、むしろ、クロフツのような地道な捜査と丹念に解きほぐしていく謎解きの興味に焦点を据えて読めば、なかなか読み心地のよいプロットを具えた作品と言えるだろう。クロフツが根強い人気を誇り、その影響を受けた人気作家までいる我が国であれば、紹介する作品さえ誤らなければ、ロラックの作品は一定の評価を得て定着していく可能性も十分あるのではないだろうか。
 “A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーが推している、“Murder by Matchlight”や“Murder in St. John’s Wood”など、興味をそそる作品もまだ残っていることだし、これからの期待株の一つだろう。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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