エリザベス・デイリイ『二巻の殺人』

 エリザベス・デイリイは、アガサ・クリスティが自分のお気に入りの作家として挙げていたことで知られるアメリカのミステリ作家。彼女は決まってそんな惹句で紹介されるのだが、地味な作風にもかかわらず、彼女のヘンリー・ガーマジのシリーズは、本国でも今日なお入手可能だし、「クリスティのお気に入り」という事実がその人気を支えてきたのは間違いあるまい。
 1940年に処女作の『予期せぬ夜』を刊行したのは、なんと62歳の時。莫大な遺産を相続した病弱の青年が、21歳の誕生日を迎えて正式に遺産を相続した直後に、崖から転落という不審な死を遂げる、という発端といい、遺言書と被害者の死亡時刻をめぐる謎といい、容疑者のサークルや動機の設定といい、いかにも黄金期の本格作品にふさわしいものだった。
 『二巻の殺人』は、ガーマジの登場する三作目の長編で、サンドーの名作表、H・R・F・キーティング編“Whodunit?”の「代表作採点簿」に挙げられ、“1001 Midnights”でもビル・プロンジーニが「彼女のベスト」としている、デイリイの代表作だ。(なお、“Detective Fiction: The Collector’s Guide”の編者、B・A・パイクは、『殺人への扉』をパースナル・チョイスに選び、“A Catalogue of Crime”の編者、バーザンとテイラーは、 “Fifty Classics of Crime Fiction 1950-1975”の一冊に“Death and Letters”を選んでいる。)
 百年前にバイロンの詩集の第二巻を持ったまま謎の失踪を遂げたとされるボールガード家の家庭教師、ミス・リディア・ワグナーが、当時の若い女性のままに、失われたバイロンの詩集とともに姿を現すという魅力的な発端は読者を惹きつけるものがあるが、残念ながら、伝説の失踪事件そのものは解決をつけられないし、せっかくの謎めいた発端も、カーの作品のような神秘的な展開を期待すると当てが外れることになる。
 殺人も物語の半ばまで起きず、饒舌な会話とも相まってやや退屈な展開ではあるが、ボールガード家の人々の地味ながらも丹念な描写に加え、意外性はないものの、まずまずきちんとまとまった謎解きが、いかにも黄金時代の本格派らしい香気を帯びていて好ましい。クリスティが彼女の作品を好んだというのも、それなりに頷けるというものだろう。
 ガーマジのシリーズは、アメリカのFelony & Mayhemからペーパーバックが出ていて簡単に入手できる。本格派が割を食いがちなアメリカで、地味ながらも今なお根強い人気を保つこのシリーズが我が国でももっと紹介されることを期待したいところだ。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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