ディテクション・クラブ vs. 元ロンドン警視庁警視 “Six Against the Yard”

 “Six Against the Yard”(1936)は、ディテクション・クラブによる企画の第6作。リレー長編、犯罪実話と続いた企画だが、ここでまた新たな趣向を打ち出している。
 クラブのメンバー6人が犯罪小説を寄せているのだが、それだけならただのアンソロジーでしかない。標題にもあるとおり、本書の面白さは、各篇に続けて、スコットランド・ヤード犯罪捜査課のコーニッシュ元警視がそれぞれコメントを寄せているところにある。
 (なお、ある日本のリファレンス・ブックでは、6人の元警察官が解決編を寄せる趣向とされているが、コメントを寄せているのはコーニッシュ元警視一人であり、各篇はそれぞれ完結していて、元警視は専門の立場から意見を述べているのであって、解決を付けているわけではない。)

 It Didn’t Work Out             マージェリー・アリンガム
  Would the Murderess Tell?       コーニッシュ元警視
 The Fallen Idol               ロナルド・ノックス
  Murder in Uniform            コーニッシュ元警視
 The Policeman Only Taps Once     アントニイ・バークリー 邦訳「警官は一度だけ肩を
                           叩く」ミステリマガジン83年6月号
  …And Then Come the Handcuffs!   コーニッシュ元警視
 Strange Death of Major Scallion     ラッセル・ソーンダイク
  Detectives Sometimes Read      コーニッシュ元警視
 Blood Sacrifice               ドロシー・L・セイヤーズ  邦訳「血の犠牲」『完全
                            犯罪大百科 上』創元社
  They Wouldn’t Believe Him!      コーニッシュ元警視
 The Parcel                  フリーマン・ウィルズ・クロフツ  邦訳「小包」『クロ
                            フツ短編集2』創元社
  The Motive Shows the Man       コーニッシュ元警視

 アリンガム、セイヤーズ、クロフツは、のちに各人の短編集に自分の執筆部分を収録している。ここからも、各篇は元警視のコメントなしでも成立する独立した作品だということが分かる。
 だからといって、コーニッシュ元警視のコメントはけして蛇足ではなく、各作家が描く完全犯罪について、現実の捜査官の視点で丹念に問題点を洗い出していくところが実に面白い。作家の見事な筆致に乗せられてしまうと、いかにも完全犯罪が成立しそうに思うのだが、元警視は、かくかくしかじかのことはそんな風にはうまく運ばないよ、捜査官ならかくかくしかじかの点に疑問を持つはずだ、という具合に、現実の犯罪や捜査の経験から、素人の読者ならややもすると見逃しそうな完全犯罪の死角を指摘したり、実際の捜査や裁判のプロセスを想定しながら、突っ込まれそうなポイントを論じていく。
 だからといって、元警視は、所詮は作家のフィクションとばかりに専門家の立場から見下すような批評はしていない。それどころか、元警視自身、探偵小説の愛読者であることがあちこちでうかがえるし、批判を加えつつも、それぞれの作品に称賛の言葉を惜しまないところが好感を抱かせる。その意味で、標題とは裏腹に、作家と元警視の対決というよりは、推理小説ファンの元警視がエールを送る書評を寄せたアンソロジーのようにも見えるところが本書の楽しいところかもしれない。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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