スチュアート・パーマー “Nipped in the Bud”

 “Nipped in the Bud”(1951)は、ヒルデガード・ウィザーズの登場する長編。本作は、蒐集家のネッド・ガイモンに捧げられている。

 芸能界デビューを夢見てニューヨークにやってきた娘、イーナ・ケルは、借りたばかりのマンションの部屋で、新天地での成功を想像しながら、ベッドで眠れぬ夜を過ごしていた。
 朝の六時を回り、隣の部屋から歌ったり踊ったり、おしゃべりをしている賑やかなパーティーの様子が聞こえてくるが、客たちが帰ったあと、男が争っているらしい音が聞こえるのに気づく。気になったイーナは、廊下に出て隣の部屋のドアを窺っていると、唇を腫らして息を切らした若い男が、ドアの外に置かれた牛乳瓶に躓きそうになりながら出てくるのを目撃する。
 男がエレベーターに乗って去ったあと、イーナはいったん部屋に戻るが、男がドアを半開きにしたまま出て行ったにもかかわらず、隣からは散らかった部屋を片付けている音も聞こえず、あまりに静かなことを不審に思い、思い切って外に出て隣の部屋に行く。呼んでも返事がないため、中の様子を窺うと、顔を殴られて血だらけになった男が床に横たわっているのを見つける・・・。

 本作は、『五枚目のエース』に続く、〝ヒルディ〟・ウィザーズの登場する12作目、完成されたものとしては最後から2番目の長編に当たる。
 殺された男は、テレビのショー番組で有名なトニー・フェイガンであり、喧嘩の相手は番組の中でトニーに侮辱された、番組スポンサーの〝ゴールト・フーズ〟の副社長、ウィンストン・〝ジュニア〟・ゴールトと判明する。捜査に当たるのは、おなじみのオスカー・パイパー警視。ゴールトが逮捕されるが、決め手となる目撃証人のイーナが姿をくらましてしまう。ヒルディは彼女を追って、愛犬のプードル〝タレイラン〟を連れてティファナに向かうが、現地でプードルが引き起こすドタバタに巻き込まれ・・・という展開になる。
 ヒルディのかつての教え子で、ゴールトの弁護士のサム・ボーディン、ティファナで出会い、彼女を手伝うことになる浮浪児のヴィトーなど、脇役にもユニークな登場人物を揃え、ユーモラスなシーンも満載だ。特に、ボーディン弁護士は明らかに、短編でコラボしたクレイグ・ライスのキャラクター、ジョン・J・マローンをモデルにした登場人物であり、実際、マローンの名前も作中で言及される。
 本作は、シリーズの中でもプロットの秀逸さで一、二を争う作品として定評があり、途中の追跡劇はやや単調で中だるみの感はあるものの、クライマックスでのどんでん返し、犯人の意外性もさることながら、しばしば動機の設定が弱いとされるパーマーとしては、動機のユニークさにも光るものがある。
 作中には、バイロンをはじめ多くの引用が出てくるが、日本人読者にはややなじみが薄いものの、そんな中にも重要な手がかりが隠されているのも面白い。ユーモア溢れる中に考え抜かれた仕掛けが盛り込まれた、パーマーの代表作の一つといえるだろう。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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