アイザック・アシモフ『アシモフのミステリ世界』

 アイザック・アシモフは、バートランド・ラッセルに似て、優れた知性と教養の持ち主でありながら、大衆読者層のために一般向け啓発書・入門書の類をたくさん書いた人だ。それだけに、小説の分野でも、科学的な知識や教養をふんだんに盛り込みつつも、読みやすく明快なプロットの作品を数多く提供してくれた作家だった。
 『アシモフのミステリ世界』(1968)は、『黒後家蜘蛛の会』シリーズ(1971年にスタート)などで本格的なミステリ分野でもどしどし短編を発表するようになる以前、まだSFを中心に創作活動を行っていた時期に発表したSFミステリを収録した短編集だ(SFミステリ長編なら、『鋼鉄都市』(1954)や『はだかの太陽』(1957)を既に発表していたが)。以前紹介した「クイーンの定員」ならぬ「グリーンの定員」にも選ばれた珠玉の短編集。
 収録作の中でも、ウェンデル・アース博士の登場する「歌う鐘」、「もの言う石」、「やがて明ける夜」、「鍵」の4編が興味深く、アシモフは序文でもオースティン・フリーマンとソーンダイク博士に言及しているが、「歌う白骨」に触発されたと思しき倒叙ものの「歌う鐘」が特に面白い。「鍵」のメイン・プロットであるダイイング・メッセージは、のちの「黒後家蜘蛛の会」シリーズでもよく用いられたテーマだ。「死の塵」も本来はアース博士ものとして書かれたらしく、シリーズに出てくる地球連邦検察局のダヴェンポート警視が登場している。
 ただ、無理からぬことではあるが、未来社会を舞台にしながら、ソヴィエトが出てきたり、採り入れられている科学知識も既に時代遅れになっているものがあったりするのが、かえって時代を感じさせてしまう。それでも、一般相対性理論をミステリに応用した「反重力ビリヤード」など、今日読んでも色褪せない面白さを十分保っている作品が多いのも事実だ。
 地球外環境学者として広大な宇宙を研究対象にしながら、みずからは乗り物恐怖症で、自分の部屋から一マイル以上遠くに行ったこともほとんどないというアース博士のユニークな個性は、飛行機恐怖症だったというアシモフ自身をモデルにしたものだろう。ただ、邦訳は、各短編の翻訳者が必ずしも同一ではないせいで、登場人物の描写や語り口にやや一貫性が欠けているのが残念なところだ。
 アース博士は、推理の冴えとしては、イライジャ・ベイリや給仕ヘンリーなど、他のシリーズ・キャラクターと比べるとやや弱いかもしれないが、実に個性的で面白いキャラクターであり、たった短編4編で打ち止めとなったのは惜しい限りだ。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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