オースティン・フリーマンとドロシー・L・セイヤーズ

 フリーマンとセイヤーズは、いずれも黄金期における英国推理小説作家の〝ビッグ・ファイヴ〟に数えられた作家であり(他の三人は、アガサ・クリスティ、F・W・クロフツ、H・C・ベイリー)、「ディテクション・クラブ」の創立時のメンバーでもあったことから親交もあったようだ。
 セイヤーズはしばしばフリーマンとソーンダイク博士に言及している。「サンデー・タイムズ」紙で“Dr. Thorndyke Intervenes”(1933)や“For the Defence: Dr. Thorndyke”(1934)などの書評も書いているし、自身が編纂したアンソロジー“Great Short Stories of Detection, Mystery and Horror”(1928)の序文で、H・M・ブロックの挿絵の影響もあってか、ソーンダイク博士のことを「おそらく小説に登場する最もハンサムな探偵」と評したのも彼女だ(邦訳はなぜか‘handsome’を「威風堂々」と訳しているが)。
 作品中でも、『不自然な死』21章(「オースティン・フリーマン氏の作品を丹念に研究したようですよ」邦訳319頁)、『死体をどうぞ』1章(「わたしにはどういう人かわからなくても、ソーンダイク博士ならすぐわかるんでしょうよ」邦訳20頁)、9章(「蝋燭の炎が逆さに映るかまっすぐか、なんてソーンダイク博士ばりに調べたわけじゃないもの」邦訳152頁)のほか、『ベローナ・クラブの不愉快な事件』18章では“A Silent Witness”(1913)、『五匹の赤い鰊』27章では『オシリスの眼』(1911)に言及している(フィリップ・L・スコウクロフト‘Richard Austin Freeman & Drothy L. Sayers’(John Thorndyke’s Journal第7号所収))。
 だが、彼女が寄与した最も重要な洞察は、“The Mystery of Angelina Frood”(1924)についての考察だ。プロットの核に触れるので詳しくは書けないが、セイヤーズは、1930年に「ディケンズ・フェロウシップ」の同人誌‘The Dickensian’に寄せた書簡で、同書と『エドウィン・ドルードの謎』のプロットの類似性を指摘し、同書が『ドルード』の重要な注釈をなしていることを論じている(セイヤーズ‘Angelina Frood’(The R. Austin Freeman Omnibus Edition Vol.11再録))。
 生石灰が死体にもたらす効果をはじめ、根幹となるプロットにもフリーマンなりの解釈を適用した作品が“The Mystery of Angelina Frood”であることは、のちにノーマン・ドナルドスンも、セイヤーズの書簡にも言及しつつ指摘している。ドナルドスンはまた、E・T・ガイモンへの同書の献本に寄せられたフリーマンの献辞に、同書が『ドルード』の「遊び心に満ちた注釈」であり、「アンジェリーナ」という名も、オリヴァー・ゴールドスミスの詩“The Hermit”(「エドウィンとアンジェリーナ」が登場する)に由来することが触れられていることを明らかにし、セイヤーズの洞察を裏付けている(ドナルドスン‘Edwin and Angelina’(The Thorndyke File 第2号所収)および“In Search of Dr. Thorndyke”)。
 デヴィッド・イアン・チャップマンによれば、フリーマンはディケンズの愛読者であり、1928年には、「ディケンズ・フェロウシップ」の招待で『ドルード』をめぐる討論に参加したこともあるという(‘The Edwin Drood Murder Case’(John Thorndyke’s Journal第3号所収)および‘R. Austin Freeman: Creator of Dr. Thorndyke’(Book and Magazine Collector 2000年7月号所収))。
 とまれ、ハワード・ブロディも認めているとおり(‘Drood and Frood: A Commentary or Solution?’(The Thorndyke File 第13号所収))、『エドウィン・ドルードの謎』と“The Mystery of Angelina Frood”との関係を最初に指摘したのがセイヤーズであることは、まず間違いあるまい。『エドウィン・ドルードの謎』の邦訳は白水社から新版が出ているし、“The Mystery of Angelina Frood”の邦訳は論創社から刊行が予定されているとのことなので、いずれ読み比べてみるのも一興だろう。
 なお、私の所持する“The Mystery of Angelina Frood”の米初版には、ヴィンセント・スターレットのサインが入っている。


                      Vincent Starret
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