フリーマン『オシリスの眼』がちくま文庫から刊行予定

 2011年12月にROM叢書から刊行されたリチャード・オースティン・フリーマンの『オシリスの眼』は、少部数の同人出版であったため、刊行後すぐ品切れとなり、以来、多くの方々から再刊を望む声を寄せていただきましたが、このたび、ちくま文庫から刊行されることが決まりましたので、お知らせいたします。
 今回の刊行にあたっては、英初版を底本に用いて全面的な改訳を行いました。以前の訳では、米初版を底本にしつつ、英版を随時参照して補訂を加えましたが、英初版と照合すると、米版やのちの英版には誤植や脱落がかなりあることも分かり、貴重な英初版に手を触れすぎるのを恐れて十分参照しなかったことを反省しております。
 解説についても、大幅な加筆を行い、読者の方の便宜に資するよう努めました。このため、以前の記事にアップしたROM叢書版の解説は、誠に恐縮ではございますが、削除させていただきますので、ご寛恕を賜りますようお願い申し上げます。
 以下に、シミルボンにアップするつもりで執筆した書評をご参考まで掲載します(絶版書のためか、検索をかけても書名が出てこないため、アップできなかったもの)。


 エジプト学者のジョン・ベリンガムは弟の家を訪ねたあと謎めいた失踪を遂げ、生死不明となる。ベリンガムは自分の死体の埋葬場所を指定し、その条件を満たすかどうかで相続人が決まるという奇妙な遺言書を遺していた。その後、ベリンガムの所有していた土地や各地の池からバラバラ死体の骨が発見される。
 R・オースティン・フリーマンの長編第二作であり、数々の名作表に選ばれた謎解きの古典。ヴァン・ダイン『カブト虫殺人事件』、クイーン『エジプト十字架の謎』、クリスティ『ナイルに死す』、カー『青銅ランプの呪』、デイリー・キング『厚かましいアリバイ』、ロビン・クック『スフィンクス』、エリザベス・ピーターズ『砂州にひそむワニ』など、エジプトを題材にしたミステリは古典期から現代にいたるまで数々あるが、本作はその嚆矢でもある。
  レイモンド・チャンドラー、トーマ・ナルスジャックなど、謎解き小説に対して厳しい批評を下した現代の作家・批評家たちですら称賛を惜しまなかった緻密な論理性こそはフリーマンの最大の特長であり、今なお他の作家・作品の追随を許さない。本作はその特長が最もよく発揮された傑作であり、帰納的推理の模範とも言うべき、ソーンダイク博士の推理は、「これ以外の解決はあり得ない」と思わせるほどの強力な説得力を持っている。フリーマン自身、本作の高みに達することは再びなかったと言っても過言ではない。
 ストーリー展開も弛緩することなく、百年以上前に書かれた作品でありながら、少しも古さを感じさせない熟度の高さが素晴らしい。メロドラマめいた恋愛描写はやや時代がかった印象を与えるが、服装は山高帽にフロックコート、交通手段は馬車、照明器具はガス灯にランタンというヴィクトリア朝~エドワード朝のノスタルジアをそそる雰囲気の中に、大英博物館など現代にも通じる舞台設定と色褪せないロジックの冴えが時代のギャップを埋めてくれる。
 探偵と犯人の個性的な造形、そのコントラストも巧みで、両者がその知性を絞り尽くして対峙するクライマックスはまさに圧巻。コニントンの『九つの解決』、モーラーの“The Mummy Case”など、直接的影響を受けた有名作のほか、エラリー・クイーンの国名シリーズをはじめ、論理性を重視したその後の本格作品のあり方を方向づけるマイルストーンを打ち立てた記念碑的傑作である。


        「オシリスの眼」英初版      オシリスの眼
                       『オシリスの眼』150部限定英初版


          モアブ語の暗号
               ソーンダイク博士(左)とジャーヴィス(右)
            (H・M・ブロックによる「モアブ語の暗号」の挿絵より)
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テーマ : ミステリ
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