フィリップ・マクドナルド “The White Crow”

 フィリップ・マクドナルドのアントニイ・ゲスリン大佐のシリーズは、ユニークなアイデアを取り入れた作品が多く、凡作、駄作も含めて、必ずといっていいほど、この作家ならではの独特の趣向が作品ごとに取り入れられているのが見どころだ。
 ただ、欠点が目立たず、プロットがうまく収まりがつけば、それなりの佳作になるのだが、どちらかといえば、アイデア倒れに終わる中途半端な出来の作品のほうが多いように思われる。ジュリアン・シモンズが“Bloody Murder”の中で、マクドナルドのことを「アイデアは簡単に思いつくが、首尾一貫したプロットにまで仕上げることは滅多にない作家」、「倦むことも知らぬが、注意も足りない実験家」と評しているのは、いかにも正鵠を射た表現だと思う。

 デビュー作の『鑢(やすり)』(1924)は、名作リストの類にもしばしば取り上げられているし、邦訳も出ているので、詳しい解説は省くが、さすがに一作目だけに、念入りに仕上げたのか、全体がよくまとまった出来栄えになっている。
 第二作目に当たるのが、“The White Crow”(1928)。自分でもさほど推す気になれない作品を取り上げるのは気が進まないのだけれど、サザランド・スコットが『現代推理小説の歩み』の中で、『鑢』、『Xに対する逮捕状』と並んで本作を推薦していることも言及しておくべきだろう。

 財界の大立者、サー・アルバート・ラインズ・バワーが、シャツにズボン下、靴下だけという姿でオフィスの椅子に座ったまま、首を刺されて死んでいるのを掃除婦が発見する。スコットランド・ヤードのルーカス副総監の要請で現場に赴いたゲスリンは、まず内部のスタッフに目を付け、ボイド警視やパイク警視(のちに“Murder Gone Mad”で主役。本作が初登場)とともに、私設秘書のダフレスネ、速記係のミス・ホルロイドとミス・ファンソープ、雑用係のレネットを調べ始める。扁桃腺で休んでいるはずのレネットの下宿を訪れたゲスリンは、まだ18歳のその青年が実はひそかに低俗な冒険小説を執筆して、かなり稼いでいるらしいことを突き止めるが、行方が分からなくなっていることを知る・・・。

 最初からブルネットやブロンドの若い女秘書を登場させて読者の気を引いたり、ナイトクラブ「白い烏」でゲスリンが激しい立ち回りを演じたりと、なにやら扇情的な描写が目立ち、低俗な安っぽさを感じさせる面もあるが、ゲスリンが推理を展開する覚え書きが出てきたり、実行犯の男をX、主犯の女をAと想定して論じる場面があったりと、謎解きとしての体裁を意識しているのもうかがえる。
 しかし、二作目にして既に、締まりのない埋め草的文章が多くてストーリー展開がしばしば滞りがちになるし、『鑢』に比べるとプロットが杜撰で、解決も強引としか言いようがないのが、つらいところだ。
 行方不明の青年は誘拐されていたと分かるが、殺人と誘拐との関連はさほど必然性が感じられないし、誘拐した理由にも説得力がなく、青年が冒険小説作家だったという設定も何のためだったのか、結局よく分からない。まして、その青年を地下倉に閉じ込めて全裸にして鎖でつなぎ、虐待を加えていたというのは、必然性のなさもさることながら、なにやら倒錯趣味的なものすら感じる。余談だが、そういえば、この作家、「おそろしい愛」という、同性愛をモチーフにした殺人を描いた短編があるのだった(MWA最優秀短編賞を受賞している)。
 ただ、(サザランド・スコットが前掲書でネタを明かしてしまっているが)ゲスリンが関係者を一堂に集め、犯人を明らかにする最後の見せ場が、この作家らしい趣向で、犯人そのものの意外性よりも、その暴き方で読者を驚かせる仕掛けが面白い。スコットが代表作の一つとして推しているのも、そのあたりに理由があるのかもしれない。
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