脱線の余談――金田一耕助の人気を実感

 当ブログのテーマの設定上、国産ミステリに触れることはほとんどない。そんなこともあって、シミルボンに書評を寄稿し始めた時には、違いをつける意味でも国産ミステリを積極的に取り上げようと思ったのだけれど、なかなか手が回らず、何作か取り上げただけでほうりっぱなしになっている。次に気が向くのはいつのことやら。
 たまたま前の記事で『犬神家の一族』に触れたが、これも『オシリスの眼』に関連してのこと。ただ、いざ書いてから気づいたが、この両作の酷似に言及した議論は意外と見当たらない。『オシリスの眼』自体が日本の読者にとっては長年手の届かない作品だったし、気づく人はなかなかいなかったのだろう。
 私にとっても、横溝正史の金田一耕助シリーズは中学時代から愛読したシリーズだが、海外作品に読書傾向が偏るようになって以来、関連本なども集めることはなかった。
 かつてパシフィカから刊行され、稀覯本と化している「名探偵読本」というガイドブックのシリーズがあり、古書で買い集めようとした時がある。ホームズ、メグレ、ポアロとミス・マープル等々と、海外の名探偵たちを取り上げたシリーズだったが、もともと全6巻の予定が、2巻追加となり、その最終巻が「金田一耕助」と、例外的に日本人を取り上げることになったらしい。
 海外の古書店と取引があっても、国内にお付き合いは特にないので、普通に探すしかなかったのだが、第7巻の「怪盗ルパン」までは比較的容易に手に入ったのに、最終巻の「金田一耕助」だけがなかなか見つからない。見つけても、どういうわけか、これだけは法外な値段が付いている。このため、ずいぶん長い間、この最終巻だけ欠番のままだったのだが、他の巻に比べて発行部数が少なかったはずはないだろうし、これだけが特に入手が難しかったところからすると、ニーズが他の巻よりはるかに高かったということなのだろう。我が国における金田一耕助の人気の高さを実感したものだ。
 この本にも随所で触れられているのだが、初登場作の『本陣殺人事件』によれば、金田一耕助は、A・A・ミルンの『赤い館の秘密』の探偵、アントニー・ギリンガムをモデルにしているらしい。ところが、どこがどう似ているのか、さっぱり分からない。「名探偵読本」には、権田萬治氏による「海外の名探偵と金田一耕助――アントニー・ギリンガムとの比較論」という論稿も収録されているのだけれど、権田氏も、類似点の乏しい両者の比較に相当四苦八苦されたらしいのが行間から伝わってくる。
 こうした論稿を参照しても、横溝氏が海外の作品からどれだけの影響を受けたのか、なかなか読み解けないのだが、『本陣殺人事件』はカーやドイルの影響が明瞭だし、津山事件(『八つ墓村』)や帝銀事件(『悪魔が来りて笛を吹く』)のような実際の事件をモデルにした作品もあるので、面白い着想やプロットのヒントは外からも積極的に取り入れるにやぶさかではなかったに違いない。海外の作品との接点について、もっといろんな議論が出てくるのを期待したいところだ。


                   名探偵読本8
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何度もすみません

横溝正史と金田一耕助も大好きです。『オシリスの眼』がますます楽しみです。金田一耕助といえば今度NHKで何作かドラマになったようですね。なぜ今また横溝・金田一?と思ってしまいましたが、根強い人気なのですね(^^)

ドラマも主役の俳優さんを変えて幾つも制作されてますね。
私もほとんど観ています。
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