フィリップ・マクドナルド “The Link”

 “The Link”(1930)は、ゲスリン大佐の登場する第4作。プロットの巧妙さ、犯人の意外性という点では、『鑢』を上回る出来栄えで、個人的には、これまで読んだマクドナルドの作品の中でイチオシの作品である。ジャック・バーザンも、“A Catalogue of Crime”の中で「疑いもなくゲスリン物のベスト」と称賛している(共著者のテイラーは異論ありとしているが)。

 物語は、サムスフォードという小さな町の獣医、マイケル・ローレスの一人称で進行していく。
 サムスフォードには、チャールズ・グレンヴィル卿という名士が住んでいた。グレンヴィル卿は、五年前に爵位と財産を継承して移住してきた、元はアメリカ人だった。ローレスは、グレンヴィル卿の妻シェイラが飼っている馬の世話を通じて夫妻と付き合いがあったが、実はひそかにシェイラに恋心を抱いていた。
 8月のある夜、ローレスはグレンヴィル夫妻の館を訪れた後、気晴らしにライフル射撃場に出かけるが、誰かがそこで既に射撃をしているらしいのに気づく。ローレスは、人と一緒になるのを嫌って、射撃場に寄らずに散策することにし、途中でパブに立ち寄る。
 パブには店の主人のディンウォーターのほか、グレンヴィルの代理人のバーフォードと、アメリカ人のアヴィスの二人の客しかいなかった。アヴィスは、同じく夏になるとサムスフォードに短期滞在でやって来るカナダ人のベルトンと不仲なことが評判で、彼らはしばらくそんなこんなを話題に会話がはずむが、ふとアヴィスが、ドアが半開きになったパブの入り口に人が倒れているのに気づく。
 ローレスが確認すると、それはグレンヴィル卿の死体で、銃で頭を撃たれて即死状態、死後硬直は始まっておらず、殺されてからそれほど時間が経過していないことを示していた・・・。

 この作品でもマクドナルドらしい趣向は健在で、巻末に付録を付し、事件の推移を示す報告書や見取り図、ゲスリン大佐がローレスに宛てた書簡を通じて謎解きの詳細を明らかにするという、手の込んだ手法を用いている。
 しかし、この作品の魅力は、そんな小道具の用い方より、プロット・アイデアの独創性にあると思われ、人間関係の構図をプロットに巧みに織り込んだ犯人の隠し方が面白い。タイトルの“The Link”も、罪のない者を犯罪との結びつきから断ち切るという意味を込めているように思わせて、実はまるで違う意味があったことに気づく。似たようなプロットをクリスティも用いていて、彼女のほうがより緻密で巧妙ともいえるが、時期としてはマクドナルドのほうが早い。
 ただ、犯行の背景となる過去の経緯や事実は、ほとんど一方的な説明で片づけられてしまい、思いつくアイデアは面白いが、プロットとして練り上げるのは中途半端といういつもながらの強引さを感じさせるのが玉に瑕といえる。
 そうした欠点はあるが、バーザンも指摘しているように、無駄な会話などの水増し的要素も少なく、ストーリーが比較的よどみなく進むのも好感が持てるし、容疑者が二転三転する展開や検死審問でのクライマックスなど見せ場も多いのが作品の魅力に寄与している。総合的に見れば、ゲスリン物のベストというだけでなく、黄金時代の傑作の一つに挙げてもおかしくない作品ではないかと思う。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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