アントニー・ウィン“The Case of the Green Knife”

 “The Case of the Green Knife”(1932)は、ユースタス・ヘイリー医師が登場する長編。

 メアリ・チョールフォントという若い女性が、ヘイリー医師を訪れる。メアリは、ダイス・チョールフォント卿の姪で、ボブ・ホワイトリーズ卿という貧しい貴族と婚約していた。ダイス卿は、金の流通を操る投資家で、7百万ポンドの資産を有する富豪だった。
 ダイス卿は、メアリの学生時代の友人で、20歳年下のパトリシア(パディ)と結婚していた。ホワイトリーズ卿は、ダイス卿の金の取引の影響で大損を被りそうになっていたため、メアリは、パディに頼んで、ダイス卿の邸、ビーチ・コートに、自分とボブを週末に招待してもらい、そこに、かつてダイス卿が脳炎を患った時に卿の命を救ったヘイリーも招待してもらうことにして、ダイス卿に取引の動きを停めるよう、ヘイリーに説得を依頼したのだった。邸を訪れたヘイリーは、ダイス卿に説得を試みるが拒まれる。
 邸には、メアリ、ボブ、パディのほか、ダイス卿の顧問弁護士のロビン・ディーンと不動産管理人のハリー・デッカーも招かれていた。夕食後、ヘイリーはデッカー、ディーンとともに邸の外の湖に向かって散策しながら話をしていたが、その時、邸のほうから叫び声が聞こえる。三人は執事のフラスク、ボブとともにダイス卿の部屋に向かう。そこへパディも加わり、部屋の中のダイス卿に呼びかけるが、中からは家具を動かしてドアの前にバリケードを張る音が聞こえる。
 彼らがドアの錠を壊し、バリケードを押し返して中に入ると、ダイス卿がベッドの足下に、パジャマ姿のまま、右手に緑色のナイフを握って倒れていた。ダイス卿は、背中から心臓を刺し貫かれていた・・・。

 ウィンの十八番とも言うべき不可能犯罪を扱った作品で、計4件の殺人が発生し、ヘイリー自身も、被害者と同じ状況で密室に閉じ込められ、危機一髪の状況に陥る。そう言うと、いかにも息をもつかせぬサスペンスフルな展開のように聞こえるのだが、実際は、ウィンの拙いストーリーテリングと平板な人物描写もあって、ちっとも盛り上がらない。
 肝心の密室殺人のトリックも、さんざん思わせぶりに不可能興味をかき立てておきながら、最後に種明かしされてみると、落胆ものとしか言いようがない。厳しすぎる言い方かもしれないが、これだけ多くの不可能犯罪ものの作品を著しながら、あまり評価されないのも分かる気がする。
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