ジョージ・リムネリアス“The Medbury Fort Murder”

 英軍医療部隊のヒュー・プリース少佐は、十五年前、医師の資格を取って軍に入ったばかりの25歳の時、〝ヴァニティ劇場〟のミュージカル・コメディに端役で出ていたプルネラ・レイクという娘と恋に落ちたことがあった。プリースはプルネラに求婚するが、彼女はプリースを愛しつつも、彼の求婚を拒み、トレメイン・ローナンという貴族との結婚を選ぶ。プリース自身も、のちにクレアという女性と結婚する。
 プリースはクレアとの間に二人の娘を儲け、幸せな家庭を築いていた。別離以来十一年後、バースの軍病院に勤務していたプリースにプルネラから手紙が届く。バースに立ち寄るので、会いたいという。二人はスウィンドンというホテルで落ち合う手はずをし、再びかつての愛が蘇った二人は、一夜だけの関係を持ってしまう。その九か月後、それまで子のなかったプルネラは男の子を産み、プリースは彼女から送られてきた子どもの髪の房を受け取る。
 その四年後、テームズ河口にあるメドベリー砦に駐在するプリースのところに、カタルを患うチャールズ・レピアンという連隊の中尉が診察を受けに来るが、プリースは彼に見覚えがあるのに気づく。実はレピアンは、プリースとプルネラが会ったホテルのバーで二人を目撃していたのだった。
 レピアンもそのことに気づき、二人の関係を調べ上げ、プルネラの子がプリースそっくりであることも突き止め、彼女に恐喝の手紙を送る。レピアンはメドベリー砦でプリースにその事実を明かし、彼にも金を要求する。
 プルネラは砦のプリース宛てに手紙を送り、医師の立場を利用してレピアンの口を塞ぐよう、暗に殺害を教唆する。プリースは覚悟を決め、かつて読んだイズレイル・ザングウィルの『ビッグ・ボウの殺人』のプロットを参考に、レピアンの殺害を計画する・・・。

 作者のリムネリアスは、本名をルイス・ジョージ・ロビンスンと言い、推理小説を二作書いたそうだが、知られているのは、ほぼこの“The Medbury Fort Murder”(1929)一作だけ。だが、本作は不可能犯罪ものの名作リストによく出てくる。
 プリースとプルネラのロマンス、二人の関係を知ったクレアの葛藤など、恋愛小説的な人間関係の描写が行き届いていてなかなか読ませる。生真面目なプリース少佐、したたかで大胆なプルネラ、冷酷無情なレピアンなど、個々の人物もまずまずよく描かれている。二人の関係を次第に突き止めていくスコットランド・ヤードのペイトン警部の地道な捜査ぶりも、その追及を必死に逃れようとするプルネラとのコントラストの中でうまく描かれ、飽きさせない。
 ほぼプリースが立てた計画通りに起きたように見えるレピアンの殺害は、プリース以外の容疑者にも事欠かない状況の中で、本当にプリース自身の犯行なのか、それとも別人による偶然の犯行なのか、作者は容易に手の内を明かそうとせず、読者を迷わせる展開もまずまずだ。
 ただ、最終的な不可能犯罪の絵解きとフーダニットの真相は、残念ながらあまりに肩透かしで、いかにも画竜点睛を欠く印象が後に残ってしまう。いくら終盤まで巧みなストーリーテリングと持続するテンションで読者を引っ張っても、肝心かなめの大団円が拍子抜けでは、凡作の評価を下さざるを得ないという典型的な例と言えるかもしれない。
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