ケネス・ブラナー監督「オリエント急行殺人事件」を観る

 ようやく「オリエント急行殺人事件」を観ることができた。
 どうしてもシドニー・ルメット監督の旧作と比較してしまうのだが、優劣を論じるのが虚しいと思うほどどちらもよくできた映画だ。
 ルメットは、社会派の監督として知られる人で、「十二人の怒れる男」や「評決」のように、裁判の正義を問うた傑作もあるだけに、「オリエント急行」もやはりこの監督らしい同様の視点からの演出が際立っていたように思う。それが原作の個性ともよくマッチして、映画としても卓越した傑作になったところがあり、原作にはないラストの演出も、映画ならではの感動的な見せ場だった。
 ブラナー監督の新作は、ルメット作品に比べると、謎解き的性格はやや後退し、むしろ個々の登場人物の心理的な葛藤を浮き彫りにして、ヒューマンなドラマとして描こうとした意図がよく見える。ルメット作品が、列車が走り出してからはほとんど列車内の場面に限定されて、ややもすると息苦しい閉所感があったのとは対照的に、ブラナーは外に出るシーンも増やして広々とした視野を確保しただけでなく、原作にはないアクション・シーンや銃撃シーンまで加えてドラマチックなメリハリをつけたようだ。
 個々の俳優で言えば、ポワロらしさという点では、アルバート・フィニイを越えるものはないが、コミカルさがやや目立つフィニイのポワロに比べると、ブラナーのポワロはずっとシリアスで、映画のヒューマンなタッチとよく調和している。ジュディ・デンチはどうしても007の〝M〟を連想してしまうのだが、旧作のウェンディ・ヒラーに比べるとやや個性を発揮しきれていない感がある。デイジー・リドリーも、ちょうどタイミングを同じくして「最後のジェダイ」がかかっているだけに、〝レイ〟のイメージが付きまとってしまうのだが、こちらはヴァネッサ・レッドグレイヴに負けない好演だった。
 原作の持ち味という点では、ベリンダ・ハバード夫人をもっとうまく描いてほしいと思うのだけれど、旧作のローレン・バコールも、新作のミシェル・ファイファーも決して悪くはないものの、やはり食い足りなさが残ってしまう。ただ、全体としては、名優をずらりとそろえたルメットの旧作のほうが、さすがに個々の俳優の個性がより際立っていたように思える(数では新作のほうが絞り込んでいるにもかかわらずだ)。
 余談ながら、字幕に「ヘラクレス・ポアロ」と出てくる箇所があるが、聴いていると、英語式に「ハーキュリーズ・ポワロ」と言っている。「エルキュール」はフランス語でどのみち「ヘラクレス」を意味するのだが、英語を母語とする者には、そう発音すると、はっきりヘラクレスの意味に受け取れるわけだ。
 ジョン・ギラーミン監督「ナイル殺人事件」では、最後にピーター・ユスチノフ演じるポワロが「オリエント急行」のエピソードに触れる場面があったが、今回の「オリエント急行」では、次作「ナイル殺人事件」を予告するようなセリフが最後に。映画ならではの宣伝上手なところも心憎い。
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