レックス・スタウト“Death of a Doxy”

 “Death of a Doxy”(1966)は、ネロ・ウルフとアーチー・グッドウィンが登場する長編。

 アーチー・グッドウィンは、イザベル・カーという元ショーガールのアパートを訪ねる。ところが、アーチーがそこで発見したのは、大理石製の灰皿で頭を殴られたイザベルの死体だった。アーチーは、自分が部屋に残した指紋を拭き取り、人に悟られないように立ち去る。
 アーチーがイザベルの部屋を訪ねたのは、仲間のオリー・キャザーに依頼されてのことだった。オリーは、スチュワーデスのジル・ハーディーと結婚する予定だったが、イザベルもオリーとの結婚を望んでいたという。彼女はオリーの結婚に異を唱え、お腹にオリーの子がいて、そのことを世間に公表するとか、オリーのポケットから抜き取った探偵許可証なども持っているとオリーを脅していた。
 オリーはアーチーに自分の持ち物を取り戻してほしいと依頼し、イザベルの部屋の鍵も貸したのだが、アーチーの追及を受けたオリーは、自分は彼女を殺していないと主張する。
 イザベルの死体は、アーチーのあとに部屋を訪れた姉のステラ・フレミングが発見し、部屋からオリーに言及のある日記を見つけた警察は、オリーを重要参考人として連行する。弁護士のナサニエル・パーカーからの連絡で、事件はウルフの耳に入り、彼はアーチーから事の経緯を知る。
 ウルフはアーチーや彼の仲間たちに意見を聴くが、オリーの無実を確信するソール・パンザーの意見を受け入れ、オリーの無実を証明すべく捜査に乗り出す・・・

 原題の‘Doxy’は今日ではほぼ死語かもしれないが、「情婦」や「愛人」を意味する言葉。イザベルが奢侈な生活を送っていたのは、〝フェデラル・ホールディング・コーポレーション〟の社長、アヴェリー・バルーが愛人の彼女の生活の面倒を見ていたためで、アーチーがフレミング夫妻の前で彼女のことをそう呼ぶことによる。アヴェリーのほか、イザベルの姉のステラ、その夫で数学教師のバリー・フレミングなど、容疑者には事欠かない。
 ウルフが脅迫状の差出人の名前からその正体を突き止める推論は、ウルフの教養の深さを印象付ける意味では面白いのだが、犯人は後半三分の一くらいでほぼ明らかになり、さしたる意外性もツイストもなく、謎解きとしては凡庸なところに物足りなさが残る。
 しかし、アーチーとナイトクラブの歌手のジュリーとのやりとりなど、アーチーの相変わらずのプレイボーイぶりもさることながら、登場人物同士の歯切れのいい会話やアーチーの一人称の叙述のテンポの良さも健在で、リーダビリティは、今日なお人気の高いこの作家ならではと思わせる。
 ちょっとしたエピソードとして面白いのは、ウルフがロンドン塔の二王子の謎に挑んでいるらしい場面が出てくることで、いったいどんな結論を出したのかと興味津々になる。劇場で上演中の「十人の小さなインディアン」への言及も出てくるが、これは明らかにアガサ・クリスティの劇作品だろう。今年論創社からご紹介する予定の作品だ。
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