脇道雑話 英語と米語のとんちんかん

 このブログの中身が「濃い」というご意見をいただき(もちろん誉めていただいたのだろうけれど、実は自分ではそんなつもりないんです)、イメージ払拭というのでもありませんが、脇道にそれてちょっと軽めのお話をしてみたいと思います。
 「刑事コロンボ」のピーター・フォークが亡くなりましたが、私も子どもの頃にテレビで感動したシリーズでした。新シリーズも含めたブルーレイが出るとのことで、これはもう即買いですね。
 そのコロンボが視察でロンドンを訪れるという設定の作品が「ロンドンの傘」。コロンボがおのぼりさん丸出しでバッキンガム宮殿やタワーブリッジを観て回るシーンは、私も改めて観て懐かしく思いました。
 面白いのは、英米の言葉や習慣の違いがあちこちで出てくること。コロンボ自身もパリならぬ「ロンドンのアメリカ人」という立場で微妙な戸惑いを示すシーンがけっこう出てきます。
 コロンボの肩書は‘lieutenant’で、正確には警部補ですが、アメリカ英語では「ルーテナント」のように発音します。ところが、イギリスでの発音は「レフテナント」。陸軍の階級では中尉を意味しますが、映画「アラビアのロレンス」でも、ピーター・オトゥール演じるロレンス中尉は「レフテナント・ロレンス」と呼ばれていました。カナダも基本的な発音はアメリカ式なのですが、英連邦に属していて、名誉職で任命される副総督(lieutenant governor)は「レフテナント・ガヴァナー」と発音していましたね。
 なので、コロンボが空港に到着すると、出迎えたスコットランド・ヤードの職員はいきなり「レフテナント」と呼びかけ、コロンボはその後もずっと「レフテナント」と呼ばれ続けます。
 被害者の邸を訪れると、土地の警官がすでに来ていて、これがコックニー訛り丸出しでしゃべるもんだから、コロンボは理解できず、同行の首席警視に「何て言ってるの?」とたずねるシーンも笑えます。
 コロンボが犯人を相手に車に雨の降った痕が残っているのを説明すると、「‘hood’に雨?」と不思議がられ、「ああ、ボンネット(bonnets)ね」と気づくシーンも絶妙でした。クラブハウスでコロンボが戸惑うシーンも含め、ほかにもいろいろあるのですが、あとはぜひ直接観てほしいと思います。ただ、残念なことに(というより無理か)、吹き替えにはこうした微妙なニュアンスの違いは活かされていないので要注意。

 コロンボはともかくとして、そもそも、ミステリというジャンル自体が英米では表現が異なります。書店に推理小説を探しに行けば、アメリカの本屋なら‘Mystery’という書棚にありますが、イギリスなら‘Crime’という書棚。イギリスでは‘crime fiction’という言い方のほうが普通で、その違いはそれぞれの推理小説作家協会の名称にも表れていますね(アメリカは‘Mystery Writers of America’、イギリスは‘Crime Writers’ Association’)。
 ジョセフィン・テイの『列のなかの男』は、原題は“The Man in the Queue”ですが、チケット購入などで並ぶ列のことを‘queue’というのは、まさにイギリス式で、アメリカなら‘line’。‘Follow the queue!’(列に並んでください)と言われて戸惑った私の知り合いのアメリカ人は、「あれはunusualな言葉だ」と言っていました。
 クリスティの『忘られぬ死』の原題“Sparkling Cyanide”も、北米の人にはピンとこないはず。イギリスでコンビニに行けば、炭酸は‘sparkling’、非炭酸は‘still’と表示されている飲み物が並んでいますが、北米の人に「‘still’はイギリスで非炭酸飲料(non-carbonated)のこと」と説明すると驚く人が少なくありません。イギリスでしか通用しそうにないタイトルの作品は、米版ではたいてい別題が付けられていますね。
 トイレも、北米では‘restroom’か‘washroom’ですが、イギリスなら‘toilet’か‘lavatory’。「使用中」の表示も、北米なら‘occupied’ですが、イギリスでは‘engaged’。知り合いのカナダ人女性はイギリス旅行の際に、(あたし、こんなところでengageしないわ・・・)と思ったそうな。紳士用を意味する‘gent’という略語もイギリスならではですね。(いつの間にかトイレの話になってしまった・・・)。
 警察の階級の違いも紛らわしく、‘inspector’はイギリスでは警部ですが、アメリカなら警視。アメリカの警部は‘captain’で、イギリスの警視は‘superintendent’。クイーンの親父とロデリック・アレンは、名称は違っても同じ警視というわけで、私自身、引用などの際にこれらの肩書をうっかり間違えそうになることしばしばです。(『クイーン警視自身の事件』がポケミスでは『クイーン警部自身の事件』となっていたのも、案外この手の混同なのかも。)
 時には、こうした英米の表現の違いをプロットの中に巧みに活かした作品もあります。ご存知の方も多いと思いますが、アガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』。映画でもうまく活用されていましたね。ただ、これも日本語訳としてはなかなか活かしにくいのが難点です。
 イギリスの女性に電話がかかり、交換手から‘There is a long distance from the United States.’と言われて、「当たり前じゃないの」と切ってしまう笑い話がありますが、イギリス人にとっては、そんな話を通じてなじみのある英米語の違いのひとつだったのかも(イギリスでも‘trunk call’という言い方はすたれつつあるようですが)。それをプロットに織り込む巧みさには、さすがミステリの女王と思うじゃないですか。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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コロンボ

わたしも、コロンボ好きでした。

特に『二枚のドガーの絵』なんて、傑作だと思います。
じゃっかん、コロンボ刑事の影が薄い気もしますが……。

Re: コロンボ

鳥居さま
コメントありがとうございます。
私のお気に入りは「祝砲の挽歌」です。
論理的に犯人を追い詰めていく推理の展開が
とても見事で、子どもながらに
感動してしまったのは今も忘れられません。
犯人役のパトリック・マクグーハンも名演で
「コロンボ」には何度か出演していますが
これが最高だと思いました。
歴史好きの私にとっては、映画「ブレイブハート」の
エドワード一世も忘れがたい演技でしたね。
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