ジュリアン・シモンズ フランシス・クォールズの事件簿

 ジュリアン・シモンズのシリーズ探偵、フランシス・クォールズは、1950年から1964年にかけてロンドンの「イヴニング・スタンダード」紙に連載された短編に登場する。新聞連載という条件下で書かれたこともあり、なかには中篇サイズの作品もあるが、ほとんどはショート・ショート。確認されている作品は全部で87篇に及ぶ。
 まとまった短編集としては、“Murder! Murder!”(1961:フォンタナ・ブックス)、“Francis Quarles Investigates”(1965:パンサー・ブックス)、“The Detections of Francis Quarles”(2005:クリッペン&ランドリュ)の三冊がある。第一短編集には21篇、第二短編集には15篇、第三短編集には42篇が収録され、8篇がなお単行本未収録のままとなっている(残り1作はエラリー・クイーン編“How to Trap a Crook and 12 Other Mysteries”(1977)に標題作として収録)。
 第三短編集は、著者没後に、クリッペン&ランドリュ社の‘The Lost Classics Series’の一冊として出たものであり、編者のジョン・クーパーが序文を寄せ、巻末に詳細な書誌とキャスリーン夫人のあとがきが収録されている。
 “Murder! Murder!”の冒頭には‘A Note on Francis Quarles’という紹介文が掲げられていて、クォールズの略歴や人となりが簡潔に記されている。クォールズは、第二次大戦直後に私立探偵として開業し、トラファルガー・スクエアに事務所を構えている。雇い人は一人だけで、秘書のモリー・プレイヤーとされているが、実際には、もう一人、ミス・インチボーンという秘書が登場することもある。


Murder! Murder!


Francis Quarles Investigates


 シモンズといえば、CWA(イギリス推理小説作家協会)のカルティエ・ダイヤモンド・ダガー賞やMWA(アメリカ推理小説作家協会)のグランド・マスター賞を受賞し、1958年からCWA会長を務めたほか、1976年からはアガサ・クリスティの後を受けてディテクション・クラブ会長も務めたミステリ界の重鎮であった。
 評論“Bloody Murder”の中で、本格謎解き探偵小説の衰退と心理描写や人物造形に重きを置いた犯罪小説の台頭を論じたことでも知られており、その主張に対しては賛否両論さまざまな議論がある。例えば、ロバート・バーナードの『欺しの天才』などは、はっきり名指しにしてはいないものの、明らかにシモンズの主張に対するアンチテーゼを意識して書かれたものだろう。
 フランシス・クォールズのシリーズは、そのシモンズが、意外にも、手がかりを読者にきちんと与えて推理に参加させるという、古典的・伝統的な謎解きの形式を用いた作品群であり、ジョン・クーパーのように、その点を特筆し、このシリーズを捉えて、シモンズにも謎解きの才や意欲があったかのように評価する論者もいる。
 とはいうものの、穿った見方をすれば、謎解きのプロットを展開するには新聞小説の制約の中でも十分だということを実践してみせようとしたのではないかとも思えるし、『知られざる名探偵物語』などと同様、シモンズにとっては、このシリーズは余技の部類に属するものだったのかもしれない。著者生前に刊行された二冊の短編集はいずれもペーパーバックのオリジナルであり、その後版を重ねることなく入手困難になっていることからもそんな印象を受ける。
 それで本当に優れた作品を多数ものしてみせたなら恐れ入るところなのだが、作品のほとんどはショート・ショート・サイズの作品であるため、十分に練り上げられた謎解きのプロットというより、思いついたシンプルなアイデアをそのまま活字に落とし込んだという印象の作品が多いし、出来栄えも不均質。“A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーも辛口の批評をしている。
 エドワード・ホックのような短編の名手の作品と比較して、サム・ホーソーン物のようなトリックを期待すれば当てが外れざるを得ないが、クイーンやアシモフなどにも、ダイイング・メッセージ物のような軽いプロットの作品が多数あることを考えると、むしろこのサイズの作品としては、よく粒が揃っていると言うべきかもしれない。
 なお、クーパーによれば、1950年代のイヴニング・スタンダード紙には、ほかにも多くの作家が作品を連載しており、クロフツの“Many a Slip”(邦訳『クロフツ短編集1』創元社)、エドマンド・クリスピンの“Beware of the Trains”、マイケル・イネスの“Appleby Talking”なども、元は同紙に連載された作品を収録した短編集とのことである。
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