『時の娘』再考 海外脱出説

 ジョージ・バック、ホーラス・ウォルポールなどによる説。
 二王子は、リチャードの時代に海外に脱出して生き延び、後に大陸から戻って反乱を起こしたパーキン・ウォーベックが弟のヨーク公リチャードだったというのが、彼らの説です。
1491年秋、ある青年が、大陸から船でアイルランドに到着し、自分は二王子の一人、弟のヨーク公リチャードだと名乗り出ます。彼は英語を流暢に話し、エドワード四世の家族について、身内でなければ知り得ないような詳細な事実を知っており、年齢も18歳くらいで、まさにリチャード王子と同年齢でした。自分はイングランドから密かに脱出させられ、行動を起こせるようになるまでフランダースで生活していたが、時が至り、王位を要求するために戻ってきた、というのが彼の主張でした。
 いかにもありがちな詐称者のように思えますが、驚くべきことに、二王子の叔母に当たるブルゴーニュ公妃マーガレットは、青年と数度に渡り面会し、彼を真正なリチャード王子と認めます。スコットランド国王ジェームズ四世は、彼をイングランドのリチャード四世として歓待し、スコットランド王室の一族の娘と結婚させ、財政や軍備について支援することを約束します。
 1496年、青年は、スコットランド軍を伴いイングランドに侵攻します。しかし、イングランド国民の支持は得られず、スコットランド軍の略奪行為を目の当たりにした青年は、戦意を喪失し、エディンバラに戻ってしまいます。
 1497年、青年は、わずかな軍隊を引き連れてコーンウォールに上陸し、地方の支援も得てイングランド軍と戦いますが、装備の悪さもあり、大敗を喫します。逃走の途中、投降して全てを告白すれば許すという勧誘に乗り、青年は捕らえられます。同年10月、青年はヘンリーの前に引き出され、ヘンリー自身がスパイを使って調査した通り、パーキン・ウォーベックという平民出身の詐称者にすぎないことを告白したとされています。
 しかし、勿論、青年は解放されることはなく、1499年、ウォリック伯エドワード(リチャード三世の甥)とともに、ロンドン塔からの脱出を企てた罪で処刑されます。

 フランシス・ベーコンは“The History of the Reign of King Henry the Seventh”(1622年)の中で、ヘンリー七世の治世の初期に、二王子は密かに海外に連れ出され、今なお生存しているという噂が広まっていたことを記録しており、二王子の海外脱出の噂は、かなり早い段階から囁かれていたことが分かります。
 バックは、“The History of King Richard the Third”の第三部で、パーキン・ウォーベックについて詳述しており、パーキンをヨーク公リチャードと認めた同時代の有力者達を列挙し、パーキンが真のリチャード王子だったことを強調しています。バックの影響を受けたウォルポールも「弟について言えば、天秤はパーキン・ウォーベックが真のヨーク公であったという方に大きく傾いている。そして、弟が保護されたのだとすれば、兄の方についてもリチャードが亡きものにしたと信じることはどうしても出来ない」と論じています。

 オードリー・ウィリアムスンも、海外脱出説に近い見解を示しています。ウィリアムスンは、二王子殺害の実行犯とされてきたジェームズ・ティレルの家系に伝わる伝承を掘り起こしています。この伝承によれば、二王子とその母親エリザベス・ウッドヴィルは、リチャードの許可により、サフォークにあったティレルの邸ギッピング・ホールで暮らしていたとされています。
 1484年3月、それまでウェストミンスター寺院内に身を寄せていたエリザベス・ウッドヴィルは、リチャードの求めに応じて寺院を出たとされていますが、その後どこに移り住んだのかは記録がありません。そこから、ウィリアムスンは、エリザベスは二王子とともにサフォークのティレル家の邸で生活していたと推理します。さらに、ギッピング・ホールは海岸沿のイプスウィッチに近く、ヘンリー・チューダーの侵略の危機が迫った時に、二王子を大陸に移すには便利な場所だったことを示唆しています。

 しかし、1674年、ホワイト・タワーの階段除去工事の際に、二王子のものと推定される遺骨が発見されて以来、この海外脱出説は俄然旗色が悪くなってしまいました。ケンダルが、パーキン・ウォーベック=ヨーク公リチャード説を支持したウォルポールを「死に馬に鞭をくれている」と評したのもこのためです。
 では、最後に問題の遺骨を巡る議論を御紹介してみたいと思います。


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