オースティン・フリーマン “A Hunter of Criminals”

 ピアスン誌の1913年4月号から9月号にかけて、オースティン・フリーマンの短編シリーズ“A Hunter of Criminals”が連載された。シリーズの主人公は、ハンフリー・チャロナー教授。
 これらの短編は翌1914年に短編集“The Uttermost Farthing”として、米ジョン・C・ウィンストン社から初版が刊行された。フリーマンの本国イギリスでは、“A Savant’s Vendetta”というタイトルで6年後の1920年に雑誌の版元C・アーサー・ピアスン社から刊行されたが、これほど刊行が遅れたのにはわけがある。フリーマンの本来の版元だったホダー&スタウトン社が「身の毛のよだつ本」として出版を拒否したからだ。

 妻と二人暮らしだったチャロナー教授は、自宅に侵入した強盗に愛妻を殺されるが、妻は死ぬ前に、逃走した犯人の髪の毛を手につかんでおり、それは白輪毛という特殊な毛髪だった。
 妻の復讐を誓った教授は、強盗を捕えては殺し、その骨格を取り出して標本にし、頭部は干し首に加工して、それぞれ自分のコレクションとして加えていく。そして、ついに毛髪を手がかりに真犯人を捕えて復讐を果たし、コレクションの最後を飾る。
 教授の死後、遺産を譲られた友人のウォートン医師は、教授の遺したコレクションと手記からそのおぞましい経緯を知る・・・。

 ノーマン・ドナルドスンも“In Search of Dr. Thorndyke”の中で、この短編集を「フリーマンの最悪の本」と呼んでいる。愛妻を失った教授の復讐譚にはそれなりにカタルシスを感じる面はあるものの、その悪趣味なコレクションには確かにぞっとするような薄気味悪さを覚える。
 チャロナー教授には、犯罪者を生得的な性格に由来するものと見なし、外観や肉体的特質とも密接に関係があることを示唆しながら、この世に存在する価値もなければ、種を残すにも値しない先天的に劣った存在と見なす傾向があり、そこにはフリーマン自身の優生学的思想の反映を見てとることができる。
 フリーマンは当時流行の優生学に強い共感を抱き、‘Eugenics Review’という学術誌に寄稿し続け、“Social Decay and Regeneration”(1921)という優生学を主題とした著作も著している。のちにナチスが自己のイデオロギーを正当化するために優生学を悪用したことから、その後、こうした過去の優生学はすっかり影を潜めてしまったが、そんな思想に肩入れしたのは、今となってはフリーマンの汚点となってしまったようだ。
 ただ、このチャロナー教授は、フリーマンが自己の思想を最も明確に投影した人物と思われるだけに、のちに‘The Mystery of Hoo Marsh’(“The Dead Hand and Other Uncollected Stories”収録)というチャロナー教授物の短編を再び書いたのも、共感を抱くキャラクターだったからではないかと思われる。
 悪評が目立つ作品ではあるが、“A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーが好意的な評価を与え、(ドナルドスンがオムニバスの序言で触れているように)“The Best Dr. Thorndyke Detective Stories”(1973)の編者としても知られるE・F・ブライラーがフリーマンのベストの一つと評していることも、公平を期すため言及しておかなければならないだろう。
 なお、雑誌版は全6篇からなるが、単行本化の際に、第一篇‘The First Catch’が‘The Motive Force’と‘Number One’の二篇に分離され、全7篇となった。
 雑誌にのみ掲載されたウォリック・レイノルズの挿絵は、骸骨標本の並ぶイラストなど不気味な面はあるが、得体が知れぬままに想像が膨らむより、ビジュアルなところがかえって救いになっているようにも思える。以下はその抜粋。


第三篇‘The Gifts of Chance’より

The Gifts of Chance


第六篇‘The Uttermost Farthing’より

The Uttermost Farthing
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