アンソニー・バウチャー “Rocket to the Morgue”

 “Rocket to the Morgue”(1942)は、シスター・アーシュラの登場する二作目。マット・ダンカン、テレンス・マーシャル警部補とその妻レオーナといった前作“Nine Times Nine”でおなじみの登場人物たちも再登場する。

 マーシャル警部補は、ジョナサン・ターベルというゆすり屋らしき男の射殺事件を調べるため、被害者が持っていた紙切れに書かれた電話番号から、ある高級なアパート式ホテルを訪れる。そのホテルには、ヒラリー・フォークスという、デリンジャー博士シリーズで知られるSF小説作家の故ファウラー・フォークスの息子が滞在していた。
 ヒラリーは父親の著作の再版や引用などを試みる者がいるたびに法外な著作権料を要求することで悪名高かった。ヒラリーはマーシャル警部補に、自分を狙う未遂事件が何度かあったことを訴え、最近も誕生日に郵送されてきたチョコレートに青酸カリが仕込まれていたと告げる。ヒラリーが話している最中にも、時限爆弾らしき小包が届き、緊急処理班を呼ぶ騒ぎとなる。
 その翌日、警部補がヒラリーと電話で話している最中に、ヒラリーが背中をナイフで刺され、あやうく一命をとりとめるという事件が起きる。ヒラリーのいた書斎は彼以外誰も出入りしたはずがなく、ナイフの刺された位置から、ヒラリーが自分で刺したとも考えられなかった。
 ヒラリーの退院祝いに、科学者ヒューゴー・チャントレルの模型ロケット・カーの公開実験を兼ねたパーティーが開かれるが、ロケット発射の瞬間、その場に出席していたマットを何者かが後ろから突き飛ばし、マットは勢いで前にいた人物をロケットの軌道上に押し出してしまい、死に至らしめてしまう。被害者はヒラリーではなく、ウィリアム・ランシブルというファンの一人で、飛び入りで参加していたらしく、彼をよく知る者はいなかった。事件はパサディナで起きたため、ロサンゼルス市警のマーシャル警部補には捜査権限はなく、嫌疑はマット・ダンカンに向けられる・・・。

 作中には、登場人物たちがバウチャーのSF作品を論じるくだりが出てくるだけでなく、パーティーの場面ではバウチャー自身も参加していて、警察から質問を受けるやりとりが出てくる。クリスティのオリヴァ夫人のように、作者が自分をモデルにした登場人物を創造する例はあるが、ヒッチコックのように自分自身をチラリ登場させてしまうのは珍しく、そんなところにも作者の遊び心が感じられる。
 ロケットが発射されるまでの状況を描写する間に、犯人の内心の独白をイタリック体で随所に挿入し、緊迫感を高める効果を上げているだけでなく、読者を惑わすレッド・ヘリングを巧みに仕掛けているのも面白い。
 密室のトリックは、バウチャー自身の経験に基づくものであるらしく、これまた登場人物がそうだと発言するくだりが出てきてニヤリとさせられるが、いくら実際の裏づけがあると言われても、知識のない一般読者には釈然としないものだろう。
 なお、本作は本来、7章構成だったが、後の版で1951年12月付けの作者によるあとがきが第8章として加筆され、執筆の動機や背景に言及するとともに、その後のSF小説の発展について触れ、謎解きの愛読者がSFのジャンルにも興味を持ってくれるよう期待を表明している。(本作もかつて『死体置場行ロケット』という題で邦訳が雑誌掲載されたらしいが、この第8章は欠けているようだ。)
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