マージェリー・アリンガムのベスト長編は?

 アリンガムはお気に入りの作家なのだけれど、バラエティに富んだ作品を書く人だけに、人によって評価が随分異なるのに驚かされることがある。我が国でも翻訳・紹介が進んだことだし、この機会に、読書ガイドも兼ねて海外の批評家たちが推す彼女の長編が何かを紹介してみたいと思う。

 アート・ブアゴウ(“The Mystery Lover’s Companion”)は、『霧の中の虎』(1952)に最高評価(真の古典)の短剣5本を与え、「キャンピオン最高の冒険」と称賛している。次いで、“The Crime at Black Dudley”(1929)、『甘美なる危険』(1933)、『判事への花束』(1936)、“More Work for the Undertaker”(1949)に短剣4本(傑作)を与えている。
 メルヴィン・バーンズ(“Murder in Print”)は、『幽霊の死』(1934)、『クロエへの挽歌』(1937)、『霧の中の虎』を挙げ、なかでも『霧の中の虎』をベストに推している。
 スーザン・オレクシウ(“A Reader’s Guide to the Classic British Mystery”)は、「ジャンルの古典100選」に非シリーズ物の“Black Plumes”(1940)を選んでいる。
 H・R・F・キーティング編“Whodunit?”では、“More Work for the Undertaker”、『霧の中の虎』、“The Beckoning Lady”(1955)が取り上げられ、特に『霧の中の虎』に高い点数が与えられている。
 キーティング自身は、『海外ミステリ名作100選』(邦訳は早川書房)で、“More Work for the Undertaker”と『霧の中の虎』を選んでいる。
 もう一方の英国人批評家の雄、ジュリアン・シモンズ(“Bloody Murder”)も、『霧の中の虎』を「彼女の全作品中のベスト」と呼んでいる。
 ビル・プロンジーニ&マーシャ・マラー編“1001 Midnights”では、トマス・ベアドが『幽霊の死』、『反逆者の財布』(1941)を挙げ、『幽霊の死』のほうに高評価のアスタリスクを付けている。
 ブルース・F・マーフィー(“The Encyclopedia of Murder and Mystery”)は、『幽霊の死』、『霧の中の虎』、“The Case of the Late Pig”(1937)を個別項目として取り上げ、なかでも『霧の中の虎』を「アリンガムのベスト・ミステリ」としている。
 ジム・ホァン編『書店のイチ押し! 海外ミステリ特選100』(邦訳は早川書房)でも、『霧の中の虎』が選ばれている。
 CWA会員によるアンケート結果に基づくベスト100を挙げた“Hatchards Crime Companion”では、『霧の中の虎』が26位に選ばれ、人気女性作家ベスト20では6位、人気男性探偵ベスト15でもアルバート・キャンピオンが5位に位置づけていて、イギリスでの人気ぶりがうかがえる。
 “Campion's Career”の著者であり、“The Oxford Companion to Crime and Mystery Writing”でアリンガムの項目を執筆しているバリー・A・パイクは、パースナル・チョイス(“Detective Fiction: The Collector’s Guide”)として、“More Work for the Undertaker”を挙げている。“Detective Fiction: The Collector’s Guide”の共著者ジョン・クーパーのほうは、『幽霊の死』を挙げている。
 ジャック・バーザンとW・H・テイラー(“A Catalogue of Crime”)は、『屍衣の流行』を「マージェリーの傑作」とし、『クロエへの挽歌』を「僅差で二番目の傑作」としているが、ベスト50には後者のほうを選んでいる。
 アリンガム・ファンを自認するロバート・バーナードは、‘The English Detective Story’(キーティング編“Whodunit?”収録)で、“More Work for the Undertaker”、『霧の中の虎』、“Police at the Funeral”(1932)、『殺人者の街角』(1958)、『陶人形の幻影』(1962)を挙げている。
 以前紹介したように、バーナードは“A Talent to Deceive”(邦訳『欺しの天才』)では、謎解き小説の意義を評価する視点で論じていたためか、“Police at the Funeral”を推していたが、“The Armchair Detective: A Book of List”では、“More Work for the Undertaker”をベスト・テンの一つに選んでいる。『欺しの天才』では、同作について、話題にしても「誰が殺人者だったか忘れてしまっている」、「設定が特殊でありすぎ、登場人物たち特有の変人ぶりに執着しすぎたために普遍性を失っている」と批判的に論じていたことを考えると、どうやらこの人、視点によって評価が変わるようだ。
 面白いのは、バーナードは、『欺しの天才』では『屍衣の流行』を「思わせぶりでもったいぶった作品」、‘The English Detective Story’では『クロエへの挽歌』を「アリンガムの最も退屈な作品の一つ」とこき下ろし、バーザンとテイラーとはまるで正反対の評価を示していること。これも人の見方は千差万別という好例といえる。(個人的にはバーナードの選択と評価が一番自分に近いと感じる。)
 “The Armchair Detective: A Book of List”では、ほかに、マイケル・ギルバートが『屍衣の流行』を、シャーロット・マクラウドとサラ・パレツキーが“More Work for the Undertaker”をベスト・テンの一つに選んでいる。なお、パレツキーはアリンガム生誕100周年記念として出版された“Margery Allingham: 100 Years of A Great Mystery Writer”に序文を寄せている。
 こうして見ると、一般的にポピュラーなのはスリラー系の『霧の中の虎』だが、B・A・パイク、ロバート・バーナード、サラ・パレツキーのような筋金入りのファンは、個性的な登場人物たちの造形と描写で際立つ“More Work for the Undertaker”を選ぶ傾向があるようだ。
 なお、夫のフィリップ・ヤングマン・カーターによれば(“The Allingham Case-Book”序文)、アリンガム自身のお気に入りは“The Beckoning Lady”だったようである。キャンピオン夫妻の息子ルパートの成長ぶりが楽しめる作品で、これも紹介が期待されるところ。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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No title

まったくの思いつきなのですが、アリンガム作品の評価って、「どのアマンダ」が好きか」もしくは「アマンダがいなくてもミステリとして評価するか」のような気がいたします。

日本ではあまり評判がよくありませんでしたが
私は“Sweet Danger”がとても気に入っています。
アマンダは初登場時が一番光っていたように思いますね。
二人の息子、ルパートの成長ぶりが楽しめる
“The Beckoning Lady”もいずれ紹介されると
いいなと思っています。
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