クレイトン・ロースン “The Great Merlini”

 クレイトン・ロースンの“The Great Merlini”(1979)は、マジシャン探偵グレート・マーリニの登場する全短編を収録した短編集。(以下のとおり、雑誌掲載も含めれば全て邦訳があるようだ。ミステリマガジン97年11月号の掲載作品総目録等を参照。)
 なお、カナダのバタード・シリコン・ディスパッチ・ボックスから2004年に出た“The Magical Mysteries of Don Diavolo”(スチュアート・タウン名義の全作品を収録)と合わせれば、ロースンの短編ミステリはほぼ全て単行本で読むことができる。(但し、こちらは『虚空から現れた死』(原書房刊)の収録作など、一部しか翻訳・紹介されていない。)

 “The Great Merlini”の収録作は以下のとおり。

 Introduction   エリナー・サリヴァン
 The Clue of the Tattooed Man      入れ墨の男と折れた脚(『名探偵登場5』早川書房)
 The Clue of the Broken Legs         〃
 The Clue of the Missing Motive     動機なき殺人(ミステリマガジン96年12月号)
 From Another World            この世の外から(『密室大集合』早川書房ほか)
 Off the Face of the Earth         天外消失(『天外消失』早川書房)
 Merlini and the Lie Detector       マーリニと嘘発見器(エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン60年6月号)
 Merlini and the Vanished Diamonds  消えたダイヤモンド(エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン60年7月号)
 Merlini and the Sound Effects Murder 音響効果殺人事件(エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン60年8月号)
 Nothing is Impossible           世に不可能事なし(『密室殺人傑作選』早川書房)
 Miracles-All in the Day’s Work     奇蹟なんぞはいつでも起る(エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン59年7月号)
 Merlini and the Photographic Clues  マーリニと写真の謎(エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン69年11月号)
 The World’s Smallest Locked Room  世界最小の密室(エラリイ・クイーンズ・ミステリマガジン71年11月号)

 ほとんどはショート・ショート・サイズの作品で、プロットも小ネタの域にとどまっているものが多い。「世に不可能事なし」のトリックなどは、子どもの頃に読んだ雑誌付録の類にも出てきたが、今にして思えば、まさに子供だましの遊びネタみたいなものだ。
 だが、「この世の外から」と「天外消失」の二篇は質・量ともに抜きん出ていて、いずれもマジシャンらしいミスディレクションを見事に活用した佳品。序文を書いている、当時のEQMM編集者エリナー・サリヴァンも、この二作をベストに推している。
 ロースンは1963年以来、EQMMの編集者を務め、サリヴァンは1970年にその後任として仕事を引き継いだ。サリヴァンは序文の中で、ロースンの人柄や引き継ぎの指導を受けた際のユーモア溢れるエピソードを紹介している。
 サリヴァンはさらに、遺作「世界最小の密室」がEQMM1971年8月号に掲載された際にフレデリック・ダネイが付した紹介文に触れ、ダネイは、もしマーリニ物の短編集が出たら、「文句なしに『クイーンの定員』に選ばれることになる」と述べていたという。
 『クイーンの定員』は1951年に初版、1969年に改訂増補版が出され、後者で新たに選ばれた最新の作品はハリー・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』(1967)だった。結局、1982年にダネイが亡くなるまで新たな改訂版が出ることはなく、1979年刊の“The Great Merlini”は、言わば幻の「定員」となったわけである。
 ロースンとディクスン・カーが互いに不可能犯罪の解決を挑戦し合ったことはよく知られていて、内側から目張りした密室というテーマをベースに、ロースンが「この世の外から」を、カーが『爬虫類館の殺人』を書いたことも不可能犯罪ファンなら周知のこと。ロースンはマジシャンらしい心理的ミスディレクションを応用し、カーはもっと技術的な仕掛けを用いていて、どちらが優れているかは容易に甲乙付けがたいが、それぞれ両者の持ち味を表しているようで興味深い。
 この両作に比べるとあまり知られていないが、実は「天外消失」も、カーからの挑戦にロースンが応じた作品だ。カーの挑戦は、「男が普通に電話をかけるために電話ボックスに入り、消えてしまう。ボックスに事前の細工はない。この問題を解決せよ」というものだった(ダグラス・G・グリーン、ロバート・エイディ編“Death Locked In”の解説より)。同解説にもあるとおり、ロースンの解決は見事というほかない。他方、カーは同じ問題に「刑事の休日」(『ヴァンパイアの塔』創元文庫収録)で取り組んだようだが、こちらは明らかにロースンのほうに軍配が上がりそうだ。(グリーンの『奇蹟を解く男』によれば、カー自身もこの作品の解決には不満だったようだ。)
 かつては入手困難だった「天外消失」も今では単行本で読めるようになったが、個人的に一番のお気に入りは長編“The Headless Lady”(1940)。かつて『首のない女』という邦訳があったそうだが、こちらも埋もれさせておくには惜しい佳作である。


The Great Merlini
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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参考にさせて頂きました

紹介されていた『天外消失』(早川書房)を、記事を読んですぐにamazonで購入しました。
いつもこちらのブログで勉強させて頂いております。これからも記事を楽しみにしております。

まるちぇろさま
お役に立ったのでしたら嬉しいです。
こうした作品をこれから新たに楽しめるのが、ある意味、羨ましいような、自分を振り返ると懐かしいような、そんな感じです。
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