ジョゼフ・カミングズ ‘Serenade to a Killer’

 ‘Serenade to a Killer’は、ジャック・エイドリアン編のアンソロジー“Crime at Christmas”(1988)に収録されたバナー上院議員物の短編。ロバート・エイディ編“Banner Deadlines”の書誌によれば、本来、Mystery Digest誌1957年7月号に掲載されたもの。

 バナー上院議員は、クリスマスの日、孤児院で子どもたちを前にスピーチをしていた。そこに、地方紙の記者をしているヴァール・グリフォンという青年がやってきて、殺人事件の調査を依頼する。
 青年の話では、キャスパー・ウールフォークという著名なピアニストが、邸宅の離れで射殺され、青年の幼なじみの女性が犯行を認めたという。オーラ・スパイアズというその女性は、ウールフォークの十歳になる娘の家庭教師をしていたが、内心では、ウールフォークの日常習慣や彼女に対する態度を嫌悪していた。彼女には夢遊病の兆候があり、その状態でウールフォークを射殺してしまったに違いないと考えていた。
 「ミュージック・ボックス」と呼ばれるその離れにはピアノが置いてあり、ウールフォークはピアノの前に座った状態で、額の真ん中を撃ち抜かれて死んでいた。ところが、現場には凶器が見当たらず、「ミュージック・ボックス」の周囲には雪が積もっていて、ウールフォーク自身が中に入って行った足跡しか残っていなかった。
 ドアも窓も閉じていたし、至近距離から撃たれていたため、射撃の名手が遠距離から撃ったとも考えられなかった。バナーは、犯人が雪の降っている間に犯行現場に来ていて、やんだあとに来たウールフォークを撃った後、そのまま中に隠れていた可能性と、二人とも降っている間にやってきて、やんだあとに犯人が被害者の靴を履いて後ろ向きに出ていった可能性を示唆するが、屋内を探しても誰もいなかったし、被害者は靴を履いたままだったので、どちらの可能性もないという・・・。

 「足跡のない殺人」といえば、『白い僧院の殺人』、『テニスコートの謎』、『貴婦人として死す』、『引き潮の魔女』、『月明かりの闇』など、カー(ディクスン)も得意とした不可能犯罪の古典的テーマだが、カミングスの処理は、こうした古典作品と比しても、そんなに荒唐無稽なものではない。フーダニットの面でも工夫があり、伏線もうまく張ってあって、読後感は悪くなかった。アンソロジー・ピースとして選ばれただけのことはあり、バナー上院議員物としては、佳作の部類に入るのではないだろうか。
 なお、同アンソロジーでは、ブライアン・デニントンというイラスト画家が、挿絵でバナー上院議員を描いている。うまく雰囲気を醸していて、おおむねイメージどおりか(もっと太っていてもよさそうだが)。

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

ジョゼフ・カミングズ ‘Murder of a Mermaid’

 ‘Murder of a Mermaid’は、Mike Shayne Mystery Magazine誌1982年8月号に掲載されたバナー上院議員物の短編。

 エイミー・ウェイヴァリーという水泳大会の優勝者が自宅の飛び込みプールで溺死体となって発見される。発見者はバナー上院議員で、彼女の平泳ぎが見たくて、シンシン刑務所の友人を訪ねたあと、ニューヨークに帰る途中で彼女の邸宅に立ち寄ったのだった。
 バナーは、リー・アンバーという、彼女のマネージャーを務める青年から、エイミーと婚約していたが、最近、彼女から婚約解消を告げられていたことを知る。バナーはそこから、自殺の可能性を示唆するが、リーは彼女が自殺するような人ではないと否定する。
 検死解剖の結果、エイミーの心臓や内臓に異常はなく、毒物も検出されなかった。彼女の指はすべて爪がはがれ、指先が擦りむけていて、溺れる前になにかと争ったらしい痕跡があったが、体にはなんの傷も残っていなかった。
 しかし、リーは、誰も泳ぎで彼女に勝てる者はなく、彼女が一流のライフセーバーだったことから、暴力の痕跡を残さずに彼女を溺れさせることができる人間はいないはずだという・・・。

 泳ぎの達人を暴力によらずにプールで溺死させるという、魅力的な不可能犯罪の設定だが、トリックのアイデア自体はシンプルで、手の込んだ仕掛けを用いていないこともあって印象は悪くない。ただ、その分、ちょっと考えれば見抜けそうなトリックであり、もう少しミスディレクションを加味するなどの工夫があってもよかったかもしれないと思わせる。
 フーダニットと動機の謎にも、シンプルながら伏線をうまく張ってあって、まとまりのよい佳品ではあるが、作品の短さもあって、プロットの骨格だけでできているようなところがあり、うまく肉付けすれば、もっと魅力的な作品になったのではないかと思わせるところがちょっと惜しい。‘The Black Friar Murders’のように、そうした肉付けで雰囲気や謎の神秘性を巧みに醸成する才も、作者にはそれなりにあったと思うからだ。


Mike Shayne82-8

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

ジョゼフ・カミングズ ‘The Last Samurai’

 ‘The Last Samurai’は、The Saint Mystery Magazineの1963年12月号に掲載されたバナー上院議員物の短編。

 舞台は、1947年夏の日本。東京では極東国際軍事裁判におけるA級戦犯の裁判が進められていた。ところが、ある晩、被告の一人である大原大佐が巣鴨プリズンから脱獄し、姿を消してしまった。
 憲兵司令官を務めるウォルター・セヴン大佐は、マッカーサーを支援するために来日していたバナー上院議員にその事件を話すと、バナーは、自分が大原に脱獄を勧めたのだという。だが、大原はバナーが提案した方法で脱獄したのではなかった。
 大原大佐と山形将軍は、ニューギニアでの虐殺行為で裁かれていたが、証人が少なく、裁判は難航していた。大原は上官である山形の指示を忠実に守り、山形の不利になる証言はしないと誓っていた。しかし、通訳を務める女性の辻と話すうちに、大原は判断が揺らぎ、真実を話すつもりになっていた。
 大原は、辻を介してバナーに電話をかけてきて、証言をさせないために、山形が自分を殺そうとしていると訴えてきたのだった。囚人は互いに離れた独房に収容され、一人ひとりに監視が四時間交代で昼夜ずっとついていて、囚人同士連絡することもできないはずだった。それでも、大原は山形を恐れ、ほかの監獄に移してくれるよう要請したものの、却下されたという。
 バナーとセヴンは、大原が脱獄した時に監視を担当していたホワイト軍曹から事情を聴く。ホワイトの話では、その日、大原たち囚人は、裁判のあと巣鴨プリズンの各人の独房に戻され、夜は青い作業服を着せられていたという。監視についてから一時間ほどして独房を覗き込むと、大原は意識を失って倒れていた。ホワイトは独房の鍵を持つハミルトン大尉を呼んで開けさせ、大原を医務室に運ばせてベッドに寝かせたが、医師が診ても、大原は意識を失っているだけで、特に異常はなかった。
 ホワイトは引き続き医務室の外の廊下に立って監視を続けたが、しばらくして中を覗くと、大原は姿を消していた・・・。

 戦後の日本を舞台にした作品で、この当時らしく、富士山、芸者はもちろんのこと、相撲や歌舞伎などの日本文化の描写が出てくるところが面白いが、必ずしも不正確ではないものの、当時のアメリカ人の日本に対する固定観念を表しているようでもある。それだけに、戦後間もない荒廃した東京の状況描写が出てくるところと妙にそぐわない印象を受ける。
 監獄からの脱出という不可能状況を設定しているが、作者は惜しげもなく、バナーが大原のために考案した脱獄方法と、実際に大原が姿を消した方法の二つのトリックを投入している。
 カミングスは、いずれのトリックにおいても、日本文化に取材した知識を活用しているのだが、よく知らない外国人が読めばともかく、日本人読者なら、いささか荒唐無稽に感じるところだろう。純粋にトリックとしてみても鮮やかさに欠けていて、やはり釈然としない。
 なお、セヴン大佐は、以前紹介した‘The Fire Dragon Caper’にも登場しているが、順序としては本作のほうが先になる。


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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

ジョゼフ・カミングズ ‘The Glass Gravestone’

 ‘The Glass Gravestone’は、The Saint Mystery Magazineの1966年10月号に掲載されたバナー上院議員物の中編。

 ストーリーは、ボブ・ファラガットというAP通信の記者の一人称で進行する。
 ファラガットは、夜九時の既に閉館した国連事務局で、安保理議長のサー・クィラー・セルウィンを取材しようとしていた。エスカレーターの下に行くと、スレンドラナト・ダスというインドの国連代表も来合わせていた。ダスはサー・クィラーに呼び出されたとのことだった。
 サー・クィラーは、エスカレーターに乗って降りてくると、二人の存在に気づき、マスコミの記者といるダスに、気をつけるよう警告を発するが、その言葉が終わらないうちに、銃声のような鋭い音がし、二人がエスカレーターを見上げると、サー・クィラーはのどを切られ、傷口から血を噴き出し、前のめりに倒れて二人のところに転がり落ちてきた。
 その時、サー・クィラーは半分くらいまで降りてきていて、二人から二十フィートほど離れたところにいたはずだったが、彼のうしろにも周囲にも誰もいなかった。ファラガットが死体を確認し、そのそばに旧式の剃刀を見つける。
 ファラガットは緊急停止ボタンを押してエスカレーターを止め、上階にあがるが、そこには、サー・クィラーの秘書のバーニス・ハーパーと国連事務局職員のジャック・クロイドンがいるだけで、ハーパー秘書はオフィスにいたし、クロイドンはベトナム戦争で片足を失って義足をしており、どちらも現場に近づいた様子はなかった・・・。

 ニューヨークの国連事務局で起きる殺人を描いているが、閉館後の事件のため、さほどの大騒ぎにもならず、なんのためにそんな特殊な舞台設定をしたのか必然性に乏しく、雰囲気づくりにも、ミスディレクションにもさほど寄与していない。肝心のトリックも、例によって不可能状況の設定は魅力的なのだが、解決の仕方はやはり釈然とせず、尻すぼみな印象を受けてしまう。
 もっとも、ロバート・エイディは、“Locked Room Murders and Other Impossible Crimes”において、「カミングズらしい巧みな処理と見事な雰囲気」と本作を称賛しており、不可能犯罪物に対して点が辛くなりがちな私自身の見方が厳しすぎるのかもしれない。カーやホックのファンならば共感する向きも多いのではなかろうか。
 なお、この号には、ウールリッチの「マネキンさん今晩は」が再録されている。ウールリッチの短編の中でも印象に残る作品の一つだ。


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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

ジョゼフ・カミングズ ‘The Riddle of Hangtree County’

 ‘The Riddle of Hangtree County’は、Western Trails誌1949年4月号に掲載された、ノン・シリーズ物の中編。ロバート・エイディが“Locked Room Murders and Other Impossible Crimes”で未入手の作品の一つとして挙げていたもの。

 ハングトリー州の法廷では、チェット・キングという青年が家畜商人のビル・トリニダードを殺害した容疑で裁判にかけられていた。訴追者である州を代表して尋問を行うのはロン・ルーカス、チェットの弁護を務めるのはビアズリー・プローン大佐だった。
 チェットは、多くの農家がルーカスの「自作農保護局」に取り込まれていた中で、弟のジョージとともに独立経営を維持しようとしていたが、ルーカスの手下たちから嫌がらせを受け、立ち退きを要求されていた。トリニダードは保護局でルーカスに次ぐポストにあり、チェットはその件で話をするために、チェリコ・ホテルの二階のトリニダードの部屋を訪れたのだった。
 そのあと、ルーカスがトリニダードの部屋に行くと、ドアには鍵がかかっていて、外から呼んでも返事がなかったため、ホテルのマネージャーに確認するが、トリニダードは部屋にいるはずだという。そこで、コマンチ族の男に梯子をかけて登らせて、窓から部屋を覗かせると、中には男が二人倒れている。部屋にはドアと窓が一つずつあるだけだった。窓は内側から鍵がかかり、ドアには重い整理ダンスが内側から押しつけられていて、窓ガラスを割って入るしかないという。
 彼らが窓を割って部屋の中に入ると、チェットは泥酔して意識を失っており、トリニダードは背中をボーイーナイフで刺されて絶命し、ナイフは背中に突き立ったままだった。ドアの鍵はトリニダードのポケットから見つかり、第三者が部屋の中に入るのは不可能であり、チェット以外にトリニダードを殺せた者はいなかった・・・。

 探偵役は、いつも傘を手に持っているプローン大佐。大団円では、その傘で立ち回りを演じてみせる。トリック自体は古典的なもので、特に斬新ではないが、シンプルで分かりやすいのは好感が持てる。ウェスタン物の雑誌に掲載されたためか、舞台も登場人物もそうした設定になっていて、西部劇風の活劇シーンがいくつも出てくるところが面白い。
 なお、この雑誌には、‘Pioneer Sky-Pilot’という、モンティ・クレイヴン名義のウェスタン物の短編も入っており、おそらくカミングスの作品だろう。


WesternTrail

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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